35(2)守りのガバナンスと攻めのガバナンス(3)ガバナンスの方法(4)ガバナンスの主体なダメージを受けていることも少なくない。歴史的に見ても、国家を含め、組織内の権力者が暴走し、組織を破壊してきた事例は数えきれない。「権力は腐敗の傾向がある。絶対的権力は絶対的に腐敗する」(アクトン卿)という格言は歴史によってまさに証明されてきたともいえる。では、経営者の暴走をどのように防止すればよいのか。先輩・後輩、濃密な人間関係、絡み合う利害関係の影響を受け、上司部下という指揮命令関係による牽制も働かない中、牽制の仕組みをどのように構築すればよいのか。これがまさにガバナンスと呼ばれる問題の本質である。なお、ガバナンスについて議論をすると、「うちは不祥事など起こらないから大丈夫(ガバナンスの議論は不要)」といった意見をよく耳にする。優れた経営者に率いられ、順風満帆な経営が行われている学校法人は、ガバナンスの必要性を認識しにくいのかもしれない。しかし、未来永劫そのような幸運な状態が続く保証はどこにもない。むしろ、将来にわたって、経営者の交代は繰り返されていく以上、いつの時点かにおいて、不幸にして不適切な経営者が選任され、暴走するリスクは、学校法人に限らず、あらゆる組織が想定しておかなければならない。ガバナンス改革は経営者自身が取り組まなければならない問題であり、その実現には多大な労力と時間がかかる。優れた経営者に率いられ、順調な経営が行われている学校法人こそ、今のうちにガバナンス改革に着手すべきであろう。経営者の暴走は、①不祥事やコンプライアンス違反といった作為による暴走と②必要な改革やリスクテイクからの逃避といった不作為による暴走の2種類に分けられる。前者を防止する仕組みが守りのガバナンス、後者を防止する仕組みが攻めのガバナンスである。では、経営者の暴走をどのように防止すればよいのか。私学法におけるガバナンスの仕組みは複雑であるため、いったんこれを離れてシンプルな事例で考えると分かりやすい。 ガバナンスの種類暴走の種類具体例守りのガバナンス作為の暴走不祥事、コンプライアンス違反攻めのガバナンス暴走不作為の必要な改革やリスクテイクからの逃避組織に与える悪影響チェックの視点事業価値低下のリスク増大経営の公正性事業価値向上のチャンス喪失経営の効率性(冨山和彦・澤陽男「決定版これがガバナンス経営だ!」(東洋経済新報社)56頁の図表を基に著者らが作成)資産家Aは、自身の資産運用会社を立ち上げ、報酬3000万円を支払い、専門家Xに100億円の資産運用を任せている。次の事態が発生したとき、どのように対処するか。①Xによる100億円の資産の横領。②資産運用の失敗による3期連続の赤字。③資産運用の成績は鳴かず飛ばず。Xの能力・適性に疑義が生じている。①の事例では、Xを即刻解任し、別の専門家を探すだろう[選解任]。②の事例でも同様にXを解任することもありうるが、報酬の減額にとどめ様子を見るという選択肢もあるだろう[報酬]。③の事例では、資産家AがXの能力・適性を判断できない場合には、お目付役として別の専門家を派遣することが考えられる[監査]。以上の通り、経営者を規律付けるための方法として重要な要素は選解任、報酬、監査であり、これらを行使する前提として必要となる情報開示と併せて4つの要素を押さえておくことが大切である。とりわけ、選解任は重要である。何かあれば、辞めさせられるかもしれないという状況(つまり、選解任権限を他者に握られている状況)こそが、経営者の暴走を抑止するための強力な規律付けとなる。なお、多岐にわたる私学法の改正項目も、選解任、報酬、監査、情報開示のいずれかに関係するものが多く、このような視点で改正項目を整理することも有益である。最後に、誰が経営者に対して規律付けを行うのか、ガバナンスの主体について検討する。通常、組織運営について最も切実な利害関係を有しているのは資金拠出者である。前記(3)の事例を見ると、資産家Aは100億円もの身銭を切っている以上、自身の資産運用会社の組織運営について強い関心を持つことは明らかだろう。株式会社制度は、このような考えの下、資金拠出者の総体である株主総会に対し、経営者に対する規律付けの権限を与えている。つまり、株式会社におけるガバナンスの中心的な主体は株主である。一方、学校法人制度はこのような仕組みになっていない。創業者や寄附者といった資金拠出者は存在するものの、資金の拠出行為は出資ではなく、寄附と整理されている。そのた[事例]
元のページ ../index.html#35