37(3)理事選任機関の制度設計を検討する際の視点画・目標の達成度については厳正なチェックを行っている。未達の場合には、やむをえない外部環境等の変化によるものなのか、経営者の自助努力に足りない部分があったのではないか、が厳しく問われている(効率性の観点)。また、内部統制システムの構築・運用については、基本的には経営者に任せつつも、経営者による不祥事や利益相反については、経営者自身がこれをチェックすることは期待できないため、評議員や監事と連携し、厳格なチェックを行っている(公正性の観点)。③経営者と理事選任機関は、一定の距離感・緊張感を保ちながらも、学校法人の永続的な発展という共通の目的に向けて協働関係が形成されている。理事選任機関は、経営のモニタリング結果を経営者にフィードバックし、経営者による徹底した原因分析を促すとともに、次の経営計画への反映が求められている。また、経営者は、現場の軋轢を生むような難しい改革を進める際には、あらかじめ理事選任機関の賛同を得て、後押ししてもらうなど、積極的に理事選任機関を活用する動きも見られるようになってきている(改革支援機能)。④理事選任機関は、いざというときには、経営者に交代を迫る覚悟と責任を持って職務に取り組んでいる。理事選任機関は、いざというときには、経営者に交代を迫らなければならない(前記(2)④参照)。理事長に従属する理事や教職員等の学内者は、理事選任機関を務めることは難しいことが多いだろう。独立性の観点からは、しがらみのない学外者を理事選任機関に登用することが望ましい。一方、学外者にも問題がないわけではない。学外者は、通常、業界の慣行や学内の事情等に通じていないため、これらを理解しないまま、理事の選解任権限が行使されると、学内に大きな混乱をもたらすおそれがある。また、悪意のある学外者が理事選任機関を支配することになれば、経営者の交代によって学校法人の乗っ取りも可能となる。安定性の観点からは、規程化によって理事選任機関の権限行使を制約するとともに、不適切な者が現れた場合には理事選任機関から排除できる仕組みを設けておくことが重要である。理事選任機関の独立性(経営者への牽制)は弱まるが、安定性も考慮して、理事会が理事選任機関の構成員を選解任する仕組みや、理事選任機関における学外者の比率を抑えるといった措置も考えられる。 理事選任機関は、理事の選解任権限という強大な権力を与えられた学校法人のガバナンスの要である。したがって、構成員の属性・資格等に照らし、理事選任機関としてふさわしい構成になっているか、社会からの理解が得られるか、という正当性の観点にも留意する必要がある。例えば、設立母体の宗教法人が建学の精神に深く関わり、寄附や運営の支援によってこれまで学校法人を支えてきたという経緯があれば、当該宗教法人を理事選任機関の構成員の1つとすることは合理性を有するものとして十分に説明が可能だろう。一方、学校法人は持分権者(オーナー)が存在せず、「公共のもの」とされていることを踏まえれば(前記1(4)参照)、特定の個人・団体の支配に服するようなガバナンス体制は適切ではない。例えば、設立母体の宗教法人が単独で理事選任機関を構成するような制度設計にしてしまうと、当該宗教法人に対し、学校法人の持分権者(オーナー)としての地位を与えるに等しく、適切とはいえない。学校法人の多様なステークホルダー(例えば、学生・保護者、教職員、卒業生、創業者・寄附者、地域社会など)を理事選任機関に加えるという多様性の観点も必要である。 最後に、運用可能性の視点も忘れてはならない。理事選任機関の構成(構成員の人数、属性・資格、人選など)に加え、会議体の開催回数や権限行使を補助するスタッフなど、制度の細部まで作り込んだ上で、運用可能なのかという観点から最終チェックを行う必要がある。理事選任機関の構成員の人数を増やすと、構成員の報酬を含め、管理コストが増大する。また、混合型(前記(1))など複雑な制度設計を採用した場合には、寄附行為等の関連規程を精緻に作り込んでおかないと、規定の空白が生じて予想外の事態に対応できなくなるなど、理事の選解任プロセスに支障が生じるおそれがある。複雑過ぎる仕組みは管理コストを増大させることにもなるため、避けるべきだろう。ア 独立性と安定性の視点イ 正当性と多様性の視点ウ 運用可能性の視点「私学法改正を大学経営にどう生かすのか」次号240号(2024年4月1日発行)掲載の本稿後編に続きます。
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