カレッジマネジメント239号
57/92

574年後の教育成果に向けて高大を丁寧に接続する須の資質・能力であるはず。上から降りてきた概念として『学力の3要素を必ず評価する』と考えると『負荷』かもしれませんが、大学教育に必要に違いないのがこの3要素であり、そこを評価することは大学教育の準備状況を入試で問うことと矛盾しません」とその意義を説明する。そのうえで、「高校教育との接続、公平性、大学教育の準備という原則を合わせて考えたほうが実務的なメリットが大きく、合理的ではあるものの、それをどう扱うかは各大学に委ねられています。だからこそ、各大学が固有のDPに基づく大学教育設計のマネジメントサイクルに入試を組み込めているかが肝要なのです」と述べる。4年かけてDPを達成し得る素質があるのかを見極める入試になっているか。「大学教育への適性や準備状況を評価するとは、伸びしろを見極めるということでもあると思います」と平野氏は言う。また、「現在の入試に関する議論は、何か決定的なものが欠けていたことを起因とするわけではありません。新しい突飛な方式を開発することありきではなく、既存の入試を直ちに否定せず、本質がクリアできているのか、できていないなら何を充実させる必要があるのかといった観点で、丁寧に見直して頂くことが大事だと思います」と補足する。DPを起点にしたサイクルを再考するうえで、大学教育に求める資質に多面的評価が必要であれば、そのように入試をチューニングする。あくまで本丸はポリシー実現なのである。こうした自校教育を起点にしたサイクルを構築しつつ、大学は変わる高校教育を理解し、対話する場を作ることも求められている。平野氏によると、入試の作問や初年次教育に高校教育の経験がある方に参画してもらう、意見交換を密に行うといったつながりを作っている大学は、探究活動を手がかりに有機的に結びつくことができているケースがある等、接続的な動きを強化している。継続的対話や接点で関係性が向上するだけではなく、「高校で身につけた学力の3要素をどうやって大学で伸ばすのか」という観点で教育の見直しができる。細やかな目配りでより実質的な接続が実現する。「そうしたときに高校から見て大学教育が分かりにくいのでは対話は進まないでしょう。大学からすれば、中核的なところで学生の水準が揃っていなければ教育が成り立たないのですから、そこはアカウンタビリティとしても明示できる状況までしっかりと議論していただきたい」(平野氏)。高校教育で大きな変化である「探究」をどのように評価するのかについても、平野氏はこう話す。「高校で探究が始まったので自動的に新たに評価方法に加えるということではなく、大学教育に必要なことなのかどうか、しっかり評価対象として吟味する必要がある。公平性という観点でも『経済的背景等に左右されない(高校生全員が受けている)』探究を評価対象とすることには合理性が高いという意見もあります」。探究は高校教育段階で必要だから始まった教育なのであって、それを評価対象とするのかどうかは各大学の判断による。ただし、新課程は「今後の予測不可能な社会で生きていくために必要な素養をどのように身につけるか」という観点で発想されており、こうした考え方は高校のみならず大学にも当然共通する観点となるはずであり、こうした教育的アプローチを大学でも継続して発展させるという接続的思想は極めて理にかなっている。これらの背景を踏まえて、高等教育機関は「高校までの学習成果を引き受けて、教育で社会に価値を創出し、その学修成果に責任を負う覚悟があるか」が問われている。「DP起点で教育を見直し、入試をその出発地点として位置づけるとは、そういうことです。大事なのは、入試を大学教育の出発地点としてどのように機能させるのか。そこから始まるサイクルに高校生をスムーズに載せ、社会に通用する段階まで育てるということ。その伸びしろがある存在として学生を捉え、可能性を最大化させるための入試を考えることです」。それには、「毎年学生の数や質はこのくらい」という固定的な思考をやめることからだという。「学生は固定値ではなく変数なのであるということを自覚しないといけない。いつも大体このくらい、という感覚にピン留めをせず、本来どのような人が欲しいのか、そこの解像度をワンクリック上げてみて頂きたいのです。それが、偏差値という物差しでは測ることができない要素に多面的・総合的にスポットを当てることになる。偏差値は尺度としては重要なものとして受け止められているでしょうが、その測る対象は一面でしかないことを踏まえ、では本学の教育はその一面だけで太刀打ちできるものなのか、本学が4年後に到達させたい水準に学生を成長させるには、入学段階で測るべきは偏差値だけでよいのか、といった観点をフラットに持って頂くことが必要でしょう」。(文/鹿島 梓)第2特集●大学入学者選抜の現在地

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る