カレッジマネジメント239号
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59探究学習で得た力を生かせる入試を模索「PASCAL入試では出願要件に、調査書の評定平均値3.5以上を求めています。しかしなかには、本学への志願度が高いのに評定平均が基準に満たず、受験できない人もいます。そこで、私達が受験生向けの講座を提供することで、志願度の高い受験生への機会を広げようと考えました。そして、プログラムを修了した場合は、評定3.0以上でPASCAL入試に挑戦できるようにしました。大学への志願度と教育効果の間には、かなり強い相関関係があると感じます。だから本学への進学を強く希望する受験生がいたら、可能な限り入学の可能性を高め、本学で成長させたいのです。また、PASCAL入試は毎年10月に行われるのですが、早い時期に志願度の高い入学者を確保できることは、大学側にとっても大きなメリットがあります」と中山氏はその意図を説明する。PASCAL入試やチャレンジプログラムの実施には、一般的なペーパーテストよりはるかに大きな手間が掛かる。そこで同大学では、教職員の負担を少しでも抑えるため、様々な工夫を凝らしているという。「チャレンジプログラムの『キャリアプランニング』で行われるグループ面談では、現役の有志の学部生がサポートする仕組みづくりを行いました。また、講座参加者とのやり取りやプログラムのアレンジといった事務作業では大学院生のスタッフが活躍してくれています。受験生にとっても現役の学生や他の受験生と触れ合うことでモチベーションが高まるとともに、他者に貢献したいとの思いを強く持つ本学の学生にとってもやりがいを感じられるという点にこのプログラムの真価があるように思います。このような手厚いサポートに支えられたプログラムによってPASCAL入試から本学の理念にかなった意欲と能力の高い学生が入学してくれているのは確かです。一方、あまりに手間ひまが掛かりすぎるのも大変ですので、そのあたりのバランスを上手にとることが今後の課題かと考えています」。2019年度までのPASCAL入試では、受験生を大学に一堂に集めて実施していた。ところがコロナ禍によって対面でのやり取りができなくなったことで、オンラインでの実施に切り替えた。必要に迫られた結果ではあったが、これが意外なメリットを生んだと中山氏は振り返る。「最大の利点は、距離の制約がなくなったことです。地方から参加する受験生は以前より増えましたし、海外からの受験者も現れました。また、以前のグループワークでは受験生同士が互いに向き合いながら話をしていたため、評価する側は受験生を背後から見る感じでした。しかしオンラインになったことで、全員の表情がよく分かるようになったのです。導入前は通信環境に関する不安もあったのですが、受験生への事前の通信環境テストの実施やトラブル時の対応マニュアルを作るなど準備を整えた結果、大きなトラブルもなく実施できています」。こうした実績の成果として、延べ704大学・短期大学が回答した大学入学者選抜実態調査から文部科学省がまとめた『令和4年度大学入学者選抜における好事例』でも、総合型選抜入試8事例の一つとしてPASCAL入試が選ばれている。「高校では2022年度から探究学習が本格スタートしましたが、これを頑張った受験生は、問いを立てて考え、議論し、協働する力を問うPASCAL入試との相性が良いのではないかと思います。本学でも、高校で学んだことが入試でも役立てられる仕組みが作れないかと模索を続けているところです。本学はこれからも教育や入試の改革を進め、能力と志が高い多様な学生を集めたい。PASCAL入試はそうした取り組みの目玉として、今後も改善しながら発展させていくつもりです」。中山氏の言葉は力強い。 (文/白谷輝英)第2特集●大学入学者選抜の現在地

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