カレッジマネジメント240号
29/95

29事務職員の海外研修FASTを再開特集1「これまで培ってきた本学の良さを残しつつ、仕事の成果をしっかり出し切った人に対してはそれに見合う処遇をしていきたいという目的で制度設計を行いました。といっても特別目新しいことをしたわけではありません。本学には、民間企業から中途で入職した職員も多くいれば、大学で30年働き続けている職員もいて、それぞれ価値観にも違いがあります。このような本学の組織・人的特性を踏まえ、共に納得感を抱けるかたちを模索してこの制度に至りました」(松薗氏)中途採用戦略に関しても見直しを進めた。背景にあったのは、力のある中間管理職層を厚くしたいとの問題意識だ。「本学が一層の改革を進めていくためには、職員と教員の協働を深めていくことが重要となります。そのためには、職員の側に、教員に対して対等にコミュニケーションや提案ができるマネジメント人材が活躍し、より組織を強くしていくことが必要だと考えています。採用選考時には、前職での業績や専門性にはもちろん着目しますが、組織・人・業務を俯瞰して見ることができるマネジャーとしての資質を見極めることも重視しています」(松薗氏)人材育成面では、実効性を重視して「人材育成に資する研修」「目的別研修」「自己啓発支援」の3本柱をベースにSD体系を整備。また、2021年度からは教職員全員参加型の新入職者オリエンテーションを実施している。「大学・短大・高校・法人に新規に入職した教職員全員を対象に、経営幹部による講話などを行っています。私立学校としての経営理念や教職協働などの本学の強みは最初からあるものではなく、長年の積み重ねによるものであること全くそう思わないあまりそう思わないどちらともいえない本学の管理職(課長以上)になりたい(専任職員対象)11.5%10.3%21.8%24.4%32.1%非常にそう思うわりとそう思うを伝え、価値観を共有することを目的としています」(松薗氏)なお、2013年度から海外の協定校と連携した職員の海外研修「FAST」(FIT Admin Staff Training)に取り組んでいたが、2023年度、5年ぶりに再開。2023年度は、タイのキングモンクット工科大学の協力を得て、タイ、台湾に部門の異なる事務職員5名を派遣した。派遣期間は10日間で、前後4カ月にもわたるこのプログラムの目的は、①グローバルマインドの醸成、②海外大学の取り組み事例を学び、大学や自部門で活用するための気づき・知見を得る、③協定校とのさらなる関係作り、④職員同士の横の連携強化。見直すべきポイントもあったが、①④に関しては高い効果が得られたという。福岡工業大学の人事・組織面に関する一連の取り組みはトップダウンとボトムアップの2つのベクトルをうまくバランスさせることによって、教職員満足度の向上を図るものだ。2021年度には「現在の仕事は自分の将来のビジョンにマッチしているか」「本学で管理職になりたいか」等を問う職員意識実態調査(図1)を実施。日常業務の中で現場で働く教職員からの意見の吸い上げにも努めている。現在は、新たな職員人事・人材育成方針の議論をまとめているという。「教職員からも選ばれる学校」を志向する同大学の取り組みは終わることはない。2021年に職員に対して実施した「意識実態調査」のなかでも、特に人事制度改革に大きく影響した項目が「本学の管理職(課長以上)になりたい」であった。組織を強化していくためには健全な競争のもと管理職を目指す人材を増やしたい一方、特定のスキルを活かして専門職として働きたいとする職員も一定数いることが可視化された。そこでそれまでの、課長や部長といった「役職」による単一的な人事登用制度から、職務能力やコンピテンシーに基づいて評価し定める「等級」による処遇へと変更した。また、タレントマネジメントシステムを導入し、各職員がそれぞれどのようなキャリアビジョンを描いているのかを上司と人事部門が把握し、エンゲージメントを高める取り組みを進めるきっかけにもなった。図1 職員意識実態調査アンケート結果大学と人的資本経営(文/伊藤 敬太郎)

元のページ  ../index.html#29

このブックを見る