カレッジマネジメント240号
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68地域共創大学が担う地域の持続可能性三重大学は2021年度文科省「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」(産業DX)に、「サステナブルな農山漁村地域を実現する地域密着型DX人材育成」が採択された。その内容と背景等について、生物資源学研究科の岡島賢治教授にお話を伺った。三重大学は、「三重から世界へ 世界から三重へ 未来を拓く地域共創大学」を標榜、地域に根ざし、世界に誇れる教育・研究に取り組み、人と自然の調和・共生のなかで、社会との共創に向けて切磋琢磨することを基本理念とする大学だ。大学として養成を目指す「生きる力」は、感じる力、考える力、コミュニケーション力、行動する力の4つで、地域社会の課題解決と研究の高度化のなかで、こうした資質・能力を伸ばすための教育を展開している。ではまず、採択事業の概観を見ていこう。この事業の目的は、「デジタルと専門分野の教育を掛け合わせた実験・実習カリキュラムを実施するにあたり、その取組の基盤となる教育設備等の支援を行うことで、デジタル化が進む産業分野をけん引する高度専門人材を育成する」ことである。農業工学・防災工学分野のDX人材育成拠点「FITS.Lab.」を整備し、産学連携体制のもと、実践的にデジタルマインドとスキルを育成できる環境を構築していくことを目指す(図1)。農業工学と防災工学とは聞き慣れない組み合せだが、岡島氏は「この2分野は、国土交通省や農林水産省の関連事業と密接に関係しています」と話す。背景には、国交省が生産性向上の手段として掲げるi-Construction推進に代表されリクルート カレッジマネジメント240 │Apr. - Jun. 2024るように、機械やロボットを使う分野に関するDX人材育成ニーズが急速に高まっていることがある。まず農業工学とは広く農業や農村を対象とし、農業機械開発や農道・水路・ダムの建築等、農業をテーマにして土木から機械まで横断する工学分野であり、三重大学が全国でも最古参だという。「業界との人脈も豊富な専門スタッフの多い伝統校だからこそ、社会の動きに対応した人材育成の必要性は強く感じているところです」と岡島氏は述べる。また、申請に当たっては事前に産官民対象に、大学で「新たに学ばせてほしいこと」、「これからも継続的に学ばせてほしいこと」についてアンケートも実施した。その結果は図2の通り、継続的には従来の工学分野が、新たに学ばせてほしいこととしてはシミュレーション等のデジタル技術が並ぶ。今回の申請はこうした産官民の声にも後押しされたものなのだ。また、防災工学は、東海地域が潜在的に抱える東南海トラフ大地震に備え、特に情報過疎地域となりがちな農山漁村地域の建築・交通等のDXを担う人材が必要とする観点で考案されている。いずれも「土木と機械」関連であり、「DX人材が必要」という共通点がある。日常的な農業従事に関する負荷をDXにより軽減するのが農業工学、災害時に災害の前兆把握や交通網の確保、避難行動等のデジタル関与を担うのが防災工学。いずれも農山漁村地域を持続可能にするためのアプローチというわけだ。「デジタル技術が普及することで安全に過ごせる可能性が高くなるはず。本学としては、ローカルな地域こそDX人材を送り込んで、より暮らしやすい地域にできるようにしたい」。そして岡島氏はこう続ける。「DXはあくまでツールです。専門性を生かして地域課題を解決するのに、DXを用いるスキルを培うカリキュ生物資源学研究科 教授岡島賢治 氏事例report_16 三重大学#9による新たな価値創出データサイエンス(DS)教育の最前線大学の将来構想と同期する持続可能な地域づくり

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