カレッジマネジメント240号
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72社会で必要な能力を身につける教育環境の整備にする機会が増えたデータサイエンスの基盤でもある。ほかにも、河川の堤防の摩耗具合やブロック塀の倒壊危険性の一斉チェックといったインフラのメンテナンスにおいて、大量に精度高く実施できる点から、生産性向上の意味合いも含めて多用されている技術だという。また今井氏は、「こうした事業ではレーザ測量したデータをとっておくことが義務づけられており、こうしたデータを扱えることは技術者の必須スキルにもなっています」と述べる。また、「現在日本にある73万の道路・橋のうち、23万はいつできたものか分かっていないといわれています。国土や地物を可視化・測量し、それをデータとして保存してデジタルツイン等において道路地物のライフサイクルを管理し、情報を継続的に更新していくことは、国土保全において非常に大事なことです。現在、日本で128万kmもある道路について、図面や地図を下敷きにしつつ、地物を画像として360℃キャプチャし、領域化して管理していくといったこともやっています。国土やインフラの保全にデジタルは多いに活躍しているのです」と説明する。レーザ測量成果の点群データの利用が建設・インフラDXの核となっており、点群データを扱える人材の輩出が強く要望されているのが現状だ。現在は人も個人情報を含まない点としてレーザで交通量調査も可能であり、マーケティングや観光領域での利活用も多いに期待されているという。こうした実社会の展開にも拘わらず、多くの大学の測量科目では、古典的な測量技法の原理原則が中心であり、レーザ測量は座学のみで、実習環境がないという。「本学でも、実社会で普及・推進されている技術が、教学環境においては機器がないから実習できず、企業の人を呼んでデモしても らうことしかできませんでした。また、人流データに関してもここ最近の実社会では多様なコンテンツプロバイダーからのデータが流通しているのに、それを使ったマーケティング等の分析の教学が大学でできていない。こうした社会と大学の距離を埋めるためには、デジタル領域における環境整備やデータ取得が必須です。実社会で使われている機器や人流等のデータを用いた教学環境を作りたい。今回の採択はそのためのものでした」(今井氏)。機器は一般的に高額なものが多く、データ利用は有償のため、予算措置がなければ教育コンテンツに取り入れることが難しいのだという。しかし、社会に出て会社に入ってから初めてそうした機器やデータに触れるのでは遅い。政府の統合イノベーション戦略2020やSociety5.0でも掲げられている少子高齢化社会におけるスマートシティの実現には、都市経営を担える「デジタル×都市」のデータサイエンティスト育成が重要課題である。その第一歩として、「実社会に即した技術習得が可能な教育環境の整備ができたことで、本学部も都市デザイン工学におけるデジタルに強みを持てるようになるのでは」と今井氏は期待を寄せる。採択事業のコンセプトは、「デジタルツイン環境を構築し、レーザ機器や交通ビッグデータを導入して『都市デジタルツイン環境におけるデータサイエンティスト育成プログラム:Urban Data Transformation』を構築する」。現在、整備した教育リソースを用いて、法政大学市ヶ谷キャンパス周辺を対象に航空レーザ測量、校舎内を対象にしたレーザ測量を実施し、国の3D都市モデルと連携したデジタルツイン環境を構築することから新たな教育が始まっているという。「これまでの定点測量から立体空間を捉えた測量の高度化が実現し、より社会に近い実践知に通ずる教育実施が可能になりました」と今井氏は述べる。今井氏は、大学から見た建設産業を「基礎研究よりも具体測量実施風景

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