カレッジマネジメント240号
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これから取り組む大学も基盤にできるよう詳細な事例ヒアリングをベースに策定82リクルート カレッジマネジメント240 │ Apr. - Jun. 2024社会人マーケットの開拓を目指す取り組みに「定石」はない。そこでこの連載では、「兆し」となりうる先駆的な取り組みをレポートしていく。2023年3月、文部科学省は、「大学等におけるリカレント教育の持続可能な運営モデルの開発・実施に向けたガイドライン」(以下「ガイドライン」)を発表した。147ページにわたるガイドラインは3章構成(表1)。第1章に「リカレント教育推進の背景」、第2章に「大学等がリカレント教育に取り組む意義」を置いたうえで、第3章では「持続可能な運営モデルの構築に向けたポイント」と題し、リカレント講座の開発・運用のプロセスをPDCAの流れに即して整理し、詳述している。ガイドラインの策定を担った文部科学省西 明夫氏は言う。「これまで文部科学省では、大学等の高等教育機関が産業界や社会のニーズを満たすプログラムを開発・実施していけるよう、様々な事業を実施してきました。例えば令和5年度実施『成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業』では63機関88のプログラムが採択されています。個々のプログラムの開発という点では効果を上げてきたわけですが、組織的、体系的に取り組めている大学は限られています。高等教育機関が日本が抱える様々な問題の解決に役割を果たしていくためには、リカレント教育にこ表1 「ガイドライン」目次リカレント教育推進の背景 1.リカレント教育とは 2.リカレント教育が注目される背景 3.日本におけるリカレント教育の現状第1章大学等がリカレント教育に取り組む意義 1.大学等に期待される役割 2.大学等がリカレント教育に取り組む意義・メリット 3.大学等におけるリカレント教育の推進に向けた方向性第2章持続可能な運営モデルの構築に向けたポイント企画・準備(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、改善(Act)に係る課題と取り組みのポイント⇒短期・中長期の双方の視点からPDCAを整理第3章れから取り組もうとするところ、取り組んでいるけれども悩みが大きいところも、『持続可能』な運営ができるような基盤を整備する必要がある。そこでそうした大学が効果的に活用できるガイドラインを作ろうということになったのです」(西氏)。キーワードである「持続可能」。ガイドラインには、その実現のための工夫がいくつも盛り込まれている。その一つは、「大学等がリカレント教育に取り組む意義」について独立した章を立て、詳述していることだ。事業を受託したPwCコンサルティング合同会社で中心的な役割を果たした田中晋作氏にその経緯を聞いた。「策定までには、これまでの調査研究事業などで蓄積されてきたデータや事例ヒアリングをベースに、令和4年度に三重大学大学院・西村訓弘教授を座長とする運営会議で議論を重ねました。問題とされたのは、個々のプロセスの課題と処方箋があっても、それだけで持続可能なリカレント教育は実現できないということ。まずは『なぜ、大学が取り組むべきなのか』『大学にとってのメリットはどこにあるのか』をきちんと描く必要がありました」(田中氏)。 「これまでの取り組み事例の分析を通じ、リカレント教育は社会人という新たな学生の獲得のための手段であるだけでなく、社会人からのフィードバックを通じて教育・研究図1 大学がリカレント教育に取り組むメリット大学教員のファカルティ・ディベロップメントへの寄与提供プログラムの質・量の向上リカレント教育講座の実施フィードバック結果の教育・研究への活用新たな学生層の獲得社会人との接点・交流機会の増加社会人受講生からのフィードバック文部科学省 大学等におけるリカレント教育の持続可能な運営モデルの 開発・実施に向けたガイドライン持続可能なリカレント教育のための「使える」ガイドラインシリーズ リカレント教育最前線 ⑥

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