カレッジマネジメント240号
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tnemeganaM ytisrevi IgnitavonnnU本連載の区切りとなる100回目では、連載開始からの18年を振り返り、国の政策と個々の大学の危機感をバネに進められてきた大学改革の方向性について一定の評価を行ったうえで、「形」を整えることに重きを置く改革の限界や弊害についても指摘した。本稿ではわが国の大学を取り巻く現状を、主に高等教育の後段階である社会と前段階である高校や高校生の両面から再確認したうえで、大学をより良い方向に変えるために何が必要か、真の変革に向けた課題について掘り下げて考えてみたい。「変革」はいかなる組織においても難題である。個人的抵抗と組織的抵抗という2つの抵抗が立ちはだかるからである。ましてや大学における変革は他の組織の比ではない。結論を先に述べると、演繹的アプローチよりも帰納的アプローチをより重視した改革を目指すべきということである。「大学はかくあるべき」という一律的な大学論よりも眼前の現実や起こり得る未来に対して「自校はいかなる役割を果たすべきか」という個別具体的な問いを立て、それぞれの立ち位置を明確にしたうえで、そのための戦略構築と組織整備を行い、実行の能力と速度を高めながらダイナミックに変革を進める。創立の精神など時代を超えて生きる理念を守り続けるためにも変化は不可欠である。長い歴史を刻む世界の大学も日本の老舗企業も変革を繰り返すことで守るべきものを守り抜いてきた。リクルート カレッジマネジメント240 │Apr. - Jun. 2024学校法人東京家政学院理事長・筑波大学名誉教授86本稿執筆中(2024年2月下旬)にも、日経平均株価が史上最高値を更新する一方で、2003年の日本のドルベース名目GDPが人口約3分の2のドイツに抜かれ世界第4位に順位を下げたことが大きな話題になっている。後者については日本の円安、ドイツの物価高騰という背景もあるが、かつて世界第2位を誇り、1995年には世界のGDPの17.6%を占めた日本が5%台にまで大きくそのプレゼンスを低下させ、1人当たり名目GDPもOECD加盟国中21位、G7国中最下位となっている事実は重い。経済の現場に目を向けると、人手不足が急速に深刻さを増しつつある。かつて受注獲得に血道をあげた建設業からは「需要はあるのに請け負うための人手確保が難しい」との声が伝わる。人手不足と法規制による物流・運送業界の2024年問題が生活に重大な影響を及ぼすことも危惧されている。日本商工会議所「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」(調査期間2024.1.4〜26)では、人手が「不足している」と回答した企業は65.6%にのぼり、なかでも建設、運輸、介護・看護は8割近く、最も低い製造業でも約6割と、あらゆる業種が深刻な人手不足に直面している実情が明らかにされている。そして、その対応方法として、採用活動の強化81.1%、事務のスリム化・ムダの排除・外注の活用39.1%、女性・高齢者・外国人材など多様な人材の活躍推進37.3%、従業員の能力開発34.6%などが並ぶ。大手企業が中心の日本経団連の調査でも、重要視する事業101吉武博通大学を強くする「大学経営改革」 個別具体的な問いを出発点とする変革人手不足は今や最大の事業リスク現実直視と未来洞察に基づいた真の変革に向けて

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