カレッジマネジメント240号
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87上のリスク(今後2〜5年程度)として5割の企業が「必要な人材の不足」を挙げている(日本経団連2023.6.13「政策要望等に関するアンケート調査」)。同時に、人事・評価・処遇制度の見直し、社員の自律的なキャリア開発のための取り組みなどを実施または検討している企業も増えている。東京証券取引所も2023年3月期決算より、有価証券報告書を発行する約4000社を対象に人的資本に関する情報開示を義務づけ、人材戦略の策定・実行を促している。高等教育の後段階である社会、とりわけ経済の分野では、労働需給という量的側面だけでなく、雇う側における人材戦略、就業者における働き方という質的側面でも大きな変化が生じていることが分かる。これらを背景に、日本の教育に対しても経済界から様々な提言が示されている。経済同友会2023.4.5「価値創造人材の育成に向けた教育トランスフォーメーション(EX)」では、従来の知識や情報をインプットするコンテンツ型の「教える教育」では限界があるとの認識を示したうえで、個の主体性を尊重し多様性を育むことで、自ら課題を設定し解決するコンピテンシーを「育てる教育」システムを新たに整備する必要があるとしている。また、日本経団連2024.2.16「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言−高度専門人材が牽引する新たな日本の経済社会の創造−」では、高い水準の専門性・総合知・汎用的能力を有する博士人材の育成・活躍に、産学官が連携・協働して取り組む必要を指摘。加えて、企業において理工系女性の採用意欲が高いことを背景に、女性理工系人材の育成・活躍に向けた具体的施策を提案している。次に高等教育の前段階である高校や高校生について考えてみたい。通信制を含む高等学校等への進学率は98.8%(2022年度)に達しているが、学校数は1988年度の5512校から2022年度の4881校、生徒数は1989年度の564万4000人から2022年度の297万2000人へと、ピークに対して、それぞれ11.4%、47.3%と減少を続けている。文部科学省では、中央教育審議会2021.1.26「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」答申を受けて、初等中等教育分科会の下にワーキンググループを設置し、高等学校教育のあり方について検討を行っている。2023年8月の中間まとめでは、生徒一人ひとりの個性や実情に応じて多様な可能性を伸ばす「多様性への対応」と、全ての生徒がその後の進路に拘わらず、社会で生きていくために広く必要となる資質・能力を共通して身につけられるよう「共通性の確保」を合わせて進めることが必要とされている。この検討に当たって示された参考資料によると、学校外での学習時間について、家や塾で学習を「しない」及び「1時間未満」と回答する割合(平日)が高1相当学年において54.7%と中3相当学年の21.4%から急増。高3相当学年では53.4%と引き続き高い一方で、3時間以上する者の割合が36.5%と大幅に増加するなど二極化する傾向にあることが明らかにされている。また、学校での学び・授業の満足度・理解度については、学年が上がるとともに低下傾向にある。日本財団「18歳意識調査〜国や社会に対する意識(6カ国調査)」(調査期間2022.1.26〜2022.2.8、各国1000名のインターネット調査)によると、自国の将来について「良くなる」との回答は英国39.1%、米国36.1%、韓国33.8%に対して日本は13.9%となっており、また自己肯定感や社会参画に関する意識も著しく低い傾向にあるとの結果が示されている。高等教育の後段階と前段階の現状については総合的でより丁寧な分析が必要だが、極めて大きな変化や対処が急がれる深刻な問題が生じていることは確かである。加えて、生成AIやDXに象徴されるデジタル技術の革新・応用の影響も計り知れない。大学という組織に身を置くと、大学には本来の使命や守るべき価値があり、大学は存在し続けるべきとの前提で議論し重要性を増す人材戦略と教育への期待・要望二極化する高3相当学年の学習時間観念的な大学論や政策主導の改革を問い直す

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