カレッジマネジメント240号
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89さわしい教員をどう選考し獲得するか。教員の熱意や教育能力を持続的に高めるための教員能力開発や教育組織開発と評価システムを自校にふさわしい形でどう整えて運用・定着させるか。大学ごとの努力と工夫が求められる。第三は、教職協働による組織的な教育及び学生支援の展開である。教育の質保証の形は整いつつあるが、教育の内容・方法は依然として個々の教員に委ねられ、「組織的活動としての教育」を定着させるための課題は多い。その際に鍵となるのは教育活動に対する職員の参画である。教員が主、職員が従の関係では社会や高校の実情、自校の学生の状況などを踏まえた学修の場の提供や多様な学生へのきめ細かな支援は難しい。教員と職員が互いの役割を理解・尊重し、よりフラットな立場で協力すること、職員もそれにふさわしい高い専門能力を身につけることが不可欠である。研究分野におけるURAのような専門職の活用も今後の大きな課題である。これらの前提となるのがトップの信念、教職員の意識・行動変革、業務構造改革の3要素である。学内の反対を理由に改革を先延ばししたり、合意が得られそうな案で妥協したりというケースは少なくない。経営に最終責任を負うのは理事会であり、教学に責任を負うのは学【参考】吉武博通(2021)「DXが大学に問いかけるもの」本誌No.229吉武博通(2022)「業務の『外部化』と出資会社の活用−大学業務の構造改革の視点と課題」本誌No.234長である。トップの役割は、学内の多様な構成員の声を聞き、社会や高校など大学の外の状況も理解したうえで、最良と考える改革案を練り上げ、実行することである。そのための信念が試されている。意識・行動変革は大学に限らずいかなる組織においても難しい。自ら進んで変革に取り組む者もいれば、背を向ける者もいる。その要諦は、変革に前向きな構成員を見つけて後押しする、意識・行動を変えようとしない背景や理由を理解する、意識・行動変革の必要性と方向性を筋道立てて具体的かつ簡潔に説明する、望ましい意識・行動を組織全体で共有する、それらを実践した者を適切に評価する、の5つである。これらの基盤となる業務構造改革も不可欠である。教職員の物理的・精神的ゆとりを確保することなく意識・行動変革を促すことは難しい。業務構造改革の考え方や方法については本連載でも何度か取りあげているので参照されたい。国公私立や規模の大小を問わず、大学を取り巻く環境は目に見えて厳しさを増している。変革が遅れれば存続基盤を失う。望ましい変革を速やかに行うことができれば社会の持続可能性を高めることに寄与することができる。大学はその岐路に立たされており、大学に関わる全ての人々の志が試されている。高校進学率 98.8%生徒数(1989→2022年度)5,644千人→2,972千人家や塾で「学習しない」と「1時間未満」の割合中3相当学年 21.4%高1相当学年 54.7%高2相当学年 52.5%高3相当学年 53.4%3時間以上する者高3相当学年 36.5%満足度・理解度は学年が上がるとともに低下傾向他国に比べて低い自己肯定感・社会参画意識高校社会と高校の現実を踏まえた大学改革の視点(概念図)重なり合う面積を増やすトップの信念意識・行動変革業務構造改革大学「人手が不足している」と回答した中小企業 65.6%なかでも不足が深刻な業種は建設、運輸、介護・看護大企業でも重要視する事業上のリスク(今後2〜5年程度)として5割が「必要な人材の不足」を挙げる求められる人材戦略の策定と実行人的資本に関する情報開示の義務づけ経済同友会「価値創造人材の育成に向けた教育トランスフォーメーション(EX)」社会① 教育の目的と内容・方針に 関する基本方針の明確化② 教員個々の熱意と 教育能力の持続的向上③ 教職協働による組織的な 教育及び学生支援の展開トップの信念、意識・行動変革、業務構造改革

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