カレッジマネジメント240号
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(ⅲ) Ancona, D., Malone, T. W., Orlikowski, W. J., & Senge, P. M. (2007). In 9人的資本経営時代の大学等の人事戦略特集1プと呼ぼう。リーダーシップとは通常、組織の長が周りのメンバーを引っ張って動員し、組織目標を実現していく力だと考えられている。イメージとしては、会社の社長や大学の学長、総長のリーダーシップである。だが、最近は、リーダーシップという言葉の意味が大きく変わっており、他者と協働し、人を巻き込んで、目標を実現していく力を、大きくリーダーシップと呼ぶようになってきた。図2に一つの例として、マサチューセッツ工科大学のDeborah Ancona教授が主張する現在求められるリーダーシップの4要件を挙げている 。これを見ると、今、求められるリーダーシップは確実に変化している(ⅲ)。なぜならば、解決しなければならない課題が、単一のスペシャリティの知見だけでは、対処できない時代になってきたからである。それほど、現在の組織に突き付けられている課題は複雑化し、多様化している。ひとつの専門性だけでは、十分ではないのだ。新たな戦略の実現や課題の解決には、様々な専門性を持った人材が知恵を出し合い、協働していくことが、必要になってきたのである。民間企業では、少し前から直面している課題である。今後は、大学等の高等教育機関でも、自己の専門性を活かして、他者と協働していく力が求められるようになる。特に大学の場合、重要なのは、教員というもう一種の人材層との協働であろう。先に述べた、組織の中でイノベーションSensemaking(意味付与)Relating(他と繋がる)組織とメンバーが置かれている状況に意味を付与する。組織の内と外で人間関係を形成する。説得力ある未来像・ビジョンを描く。ビジョン達成のための新しい方法を生み出す。(ⅰ) 軽部大・青島矢一・武石彰 (2012)『イノベーションの理由—資源動員の創造的正当化』有斐閣.(ⅱ) パーソル総合研究所による調査(2022年、回答数:各社の人事部管理職その他1,647名)https://rc.persol-group.co.jp/news/202205131000.htmlpraise of the incomplete leader. Harvard business review, 85(2), 92. や新事業を成功させていくのも、こうしたリーダーシップを持った人材に依存する。大学等の組織も、新たなリーダーシップを持った人的資本を戦略的に確保し、活用していかなくてはならないのである。人的資本経営が大学等にも導入されるなかで、人的投資も変わらなくてはならない。特に、投資をして新たなビジョン・戦略を実現する人材を戦略的に確保することが求められるようになる。そのためには、特に職員人材に関して、これまでの人事管理のあり方を見直し、改革していくことが必要である。また職員自身も変わっていかなくてはならない。自分の専門性を磨き、それを使って組織のビジョン・戦略実現に貢献するとともに、周りと協働し、新たなタイプのリーダーシップを発揮する人材になっていくことが必要である。さらに組織側もこうした変化を支援することが求められる。人的資本経営の時代は、変化の時代なのである。図2  Deborah Ancona(MIT)が示す新たなリーダーシップ4要件ビジョン構築(Visioning)創意工夫(Inventing)大学と人的資本経営

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