31大学と地域に愛着を持つ「回帰率」を重視将来の東京農大生を生むサイクルを作る知床等での森林研究のだ。学外の学びだけでなく、リアルを体験するとともに、働く大人との接点も多いという。「学生にとってバイトの最初のきっかけはお金を稼ぐことですが、生産の現場で働くことで『こうやってホタテが獲れているんだ』『じゃがいもやビートはこうやって育てられているんだ』ということを知ることができます。また現場の大人とのコミュニケーションも身についていきますし、生産物がスーパーに並び消費者の手に渡るまでの流れや、流通が抱える問題等、社会の仕組みもわかる。学びの場が学校の中だけにおさまらず、バイトを通じた現場にも広がっていることは、このオホーツクキャンパスならではの特徴だと思います」(千葉氏)キャンパスに限らず、オホーツクの農場や漁場と、そこで働く人々との交流といった学生生活の全てが、ここにしかない体験になっていることが学生をひきつける大きな要素となっている。こういった学生のバイトは、実のところ生産現場にとっても貴重な労働力にもなっている。網走市の人口は約3万2000人だが、そのうち18歳から20代前半の人口の約半数が東京農大生。地元からも若手の働きは頼りにされ、自ずと学生と社会との接点が増えていくという好循環も生まれている。こうした網走ならではの地域と大学の関係性は来てから体験できるものだが、それ以前に、なぜオホーツクのキャンパスを選んで学生はやってくるのか。東京農大で実施されたアンケート調査によると3つの理由が見えてきた、と千葉氏は語る。1つめは大学の偏差値やブランド名よりも、自分の好きなことを追求したいという志向が強いこと。2つめは、オホーツクに行けばユニークな自分が見つけられる、あるいは成長できるというような期待感を持っているということ。特に関東や関西の大都会から来る学生たちの意見として「都会にいたら自分が埋もれてしまう。とりわけ向上心が高いという自覚はないが、その他大勢のままでいる自分も嫌だ」という声が顕著に聞こえてくるという。3つめが映像でしか見たことない大自然のなかで、リアルな当事者として活躍できるということ。「おそらくこの3つがオホーツクに集まってくる学生の特徴であり、私たちはそこに訴求していけば、今後も安定して学生達を呼べるのではないかと思っています。特に3つめの“自分自身がプレーヤーになれる”ことは、学生たちが本当に魅力に感じているようです」(千葉氏)こうした志向的な条件に加え、千葉氏は卒業生たちが東京農大とのつながりを大切にし、オホーツクに遊びに来たり、大学の同窓会に顔を出す、といった行動にも着目し、「回帰率」と称して重視していると言う。「同じ釜の飯を食った仲間、といったつながりの意識は大学や地域の未来にとっても大切です。卒業生の多くはオホーツクから出ていくのですが、最近では卒業生のお子さんがオホーツクキャンパスに入学することも増えています。こういったことがとても大切だと考えています。卒業後の学生の地域定着だけではない指標で大学の価値を考えていく必要性を感じています」(千葉氏)ホタテ漁業バイト特集1若者はなぜ移動するのか(文/木原昌子)
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