カレッジマネジメント242号
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17地域の次世代産業人材育成に協働体制で取り組むわった後、科学技術振興機構や情報処理推進機構に勤務したキャリアの持ち主で、長らく「サイエンスをどのように社会実装するか」という点で推進役を担ってきた。その経歴を生かした現職であり、産学連携の要諦をこう説明する。「双方に有意義な産学連携を形成するには、市場ニーズや組む相手を冷静に見極めるためのコーディネート専門要員が必要です」。産学連携の目的は概ね研究の社会実装や高度化だ。その目的を達成するための方策が、研究主語のシーズオリエンテッドな視点だけでは、手段の最適化という矮小化された結果で終わることも多い。アカデミアの評価軸は社会の評価軸とは異なる。コーディネーターに必要なのは「世の中にどう役立てるか」というマーケット視点であり、技術をどのように届けるかというシステム・サービス視点なのだ。アカデミアよりもスピードが速く、予算規模もはるかに大きい産業の動向に精通し、大学のリソースを市場でどのように最大化できるか、誰と組むとそれを実現できるかを練る必要があるという。採択事業でも、産学連携体制で2つの観点から人材育成を行っている。まず、ロボット・ICT技術に関する知識を身につけ、将来的な産業発展に寄与できる若手人材。次に、ロボット・ICT技術を高校生等に教育することのできる人材だ。特に前者は南相馬市内3高校や職業能力開発校である福島県立テクノアカデミー浜を対象に、福島大学や福島県ハイテクプラザ、南相馬市内ロボット関連企業等と連携してプログラミングやロボット技術の基礎教育、ロボット制御等の技術習得の研修・演習を行い、昨年度の参加人数は延べ500名を超え、各レベルの受講生の理解度50%以上という成果を挙げている。研修はロボット作成や地元企業見学、実機操作会津大学ロボットSpider2020訓練等多岐にわたり、設計は大学、場所はRTF、講師は大学と地元企業といった具合に、得意分野を持ち寄った連携協働体制で運営する。また、人材育成と並行して、浜通り地域等におけるロボット産業振興に関する取り組みの促進・支援も行う。RTFが位置する南相馬市はロボット・宇宙等に関する企業集積を進め、独自のインキュベーションセンターも備えている。会津大学はRTFに研究室を持ち、ロボット分野へのICTアプローチで独自性と強みを発揮しながら、地元企業のロボット開発技術について、学術的な支援や連携促進支援も行う。「地元産業を振興しようという一体感ある共創のなかで、お互い強みを持ち寄って事を成している実感があります」と屋代氏は述べる。2019年からは近隣高校を対象にプログラミング教育(Python等)にも力を入れている。その意図を屋代氏はこう説明する。「ロボット人材育成×南相馬市だけではパイが小さいところ、今後のロボットのみならず多様な産業で必須の汎用技術であるプログラミングの教育を広げることは、広く産業振興につながる動きだと考えています」。高校生3~4名に会津大学の学生が1名つく体制で実習を行うもので、高校からの反響も良く、新課程の情報科目と対応させる動きもあるという。「やはり科目に組み込まれたほうが授業時間を使えて参加者も多いといったメリットが大きいため、こうした動きを拡大していきたい」と屋代氏は意気込む。こうした教育活動は学生の積極的な参加を促し、浜通りへの往来が活発になることも目的の1つだ。福島大学等とも協働し、積極的に参加する学生同士の横の交流促進にもつながっており、「今後もこうした動きや協働的な動きがさらに盛んになることを期待したい」と屋代氏は述べる。今後の課題は、外部資金がなくても実施が可能となる持続可能なイノベーションエコシステムの構築だ。地域に求められ、認められている事業であるからこそ、復興知事業としての採択予算がなくても自立化できることが課題だという。多くの地域にとって、地域課題をど真ん中に置いた時に関係者が協働できる持続可能な体制の構築は、各自の強みの明確化と合わせて必須であろう。大事なのは「関係性の質を担保したうえでお互いできることを明確にし、補完し合いながらより大きな価値創出を目指す」というスタンスであるようだ。さらにその前段階として、各自が課題に対して当事者意識を持てるかどうかが肝であるように感じた。連携・共創はあくまで(文/鹿島 梓)目的達成のための手段の1つである。 特集1● 産学官共創の未来

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