カレッジマネジメント242号
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67だアクセルが駆動輪に伝わらない、伝わっても動き出すまでに時間がかかり、回転力も弱いという点は、改革が急務な大学の致命的な弱点でもある。これとは逆に、教職員の中に強い危機感や改革意識を持つ者が現れ、緩慢な動きのトップマネジメントに不安を覚えるケースもある。このような意識を持つ教職員は上層部だけでなく、現状に安住し改革に背を向ける周囲に不満や閉塞感を感じることも多いだろう。これらの問題は、理事会の役割や学長の権限などの制度変更や国の政策誘導だけで解決できるものではない。トップマネジメントを担う人材の育成・登用や教職員のマインドセットなど、より根の深い本質的問題の構造を理解し、改善に向けた道筋をつけ、着実に歩を進めていく必要がある。ステークホルダーの視点に立脚した規律づけの仕組みであるガバナンス、経営・教学におけるマネジメント、この2つの合わせ技こそ、個々の大学が自己変革できるかどうかの鍵である。なかでもマインドセットの問題は、大学が危機を乗り越え、持続的発展を目指すに当たり最大の難問といえる。事業計画の重点施策に意識改革を掲げる大学もある。しかしながら、現状の何が問題で、いかなる状態を望ましいと考え、そのためにどのような具体策を講じるのかを明確にしない限り、画餅に帰することになる。マインドセット(mindset)は心的態度、考え方や物の見方、あるいは心のあり方と説明されることが多い。特に大学においてはマインドセットの問題が変革の前に大きく立ち塞がり、実行を妨げたり、また改革の意欲を喪失させたりすることもある。2014年6月に学校教育法が改正され(施行は2015年4月)、教授会は審議機関として決定権者である学長に対して意見を述べる関係にあることが明確化された。それから既に10年が経過したが、今なお教授会の反対を理由に改革を先送りする、妥協を重ねた改革案でやむなしとするといったケースが見受けられる。ガバナンスの問題として、学内において役割や責任・権限を改めて明確にした上で、学長が決定するに当たり、現場の声をいかに吸い上げ、決定事項の内容や考え方をどう正確に伝えるか、対話の仕方を工夫する必要がある。後者はマネジメントの問題である。教員が自身の研究を深める一方で、学生にとって最良の教育を提供するための組織的な活動を、教員間や教員・職員間の協働のもと推進するに当たっては、マインドセットが大きな意味を持つ。また、職員については、シニア層と中堅・若手層の間、変革志向の強い職員と現状維持を望む職員の間で意識の違いが生じ、組織全体の変革が停滞する要因となっている。育児や介護に時間を割かざるを得ない職員とそうでない職員の間でどう相互理解を図るか、上位役職に就きたくないと考える若手職員にどう対処するか、役職定年後のシニアスタッフのモチベーションをどう維持するかなど、職員組織が抱える問題の解決はどれも難しい。これらの多くもマインドセットに関わる問題である。心理学者のキャロル•S•ドゥエックは、自分の能力は固定的で変わらないと信じている人を「硬直マインドセット=fixed mindset」と呼び、人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができるという信念の人を「しなやかマインドセット=growth mindset」と呼ぶ。そして、「しなやかなマインドセットの経営者は、人間の、自分の、そして他者の、潜在能力と成長の可能性を信じるところから出発する」と述べている。大学におけるマインドセットの変革には多くの困難が伴い、大学ごと学部ごとにも難しさの程度は大きく異なる。特に学部や学科の単位で見ると、変革に前向きな組織と抵抗を示す組織、オープンな雰囲気の組織とそうでない組織と、様相が異なることが多い。一定期間を経て形成された組織文化や組織風土が構成員のマインドセットに深く関わり、変革の難易度に少なからぬ影響を及ぼしているように思われる。これらは大学改革を巡る議論においても、これまであまり論じられてこなかった点である。マインドセット変革については、組織文化との関係を含めて、機会を改めてさらに深く掘り下げて論じたい。マインドセットを望ましい方向にどう変えるか

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