69一方、中小規模の大学では、トップの意思と工夫次第で現場との距離はいくらでも縮めることができ、決定や実行のスピードを上げ、学生や社会のニーズにより柔軟に対応できる可能性がある。他方で、学問分野の多様性が乏しく、一概には言えないが、オープンな雰囲気よりもクローズドな体質が勝る場合があることも否定できない。構成員が少ないがゆえに人間関係が組織運営に少なからざる影響を与える可能性もある。特に、職員の配置・育成面での課題は大きい。大規模校のように独自の研修システムを整えることも難しく、ジョブ・ローテーションによる育成機会も限られる。職場内にロールモデルを見つけにくいと感じる職員もいるだろう。経営の意思と工夫次第でカバーできる部分もあるが、中小規模校の有する良さや強みを持続発展させるためには、大学の枠を超えた体系的な研修機会の整備、同種の業務を担当する職員の大学間異動の促進なども考える必要がある。DXの取り組みについても同様である。本連載でも述べたが、教育、研究、経営の各面におけるDXの取り組みは大学の競争力を左右する。そのためには、自校の業務を知り、かつデジタル技術の可能性を理解できる人材が不可欠である。大規模校でも簡単ではないだろうが、中小規模校はさらに厳しい環境にある。大学を超えた共同開発も有力な手段となり得る。規模と並び選抜性も個別具体的な改革を進める上で考慮すべき重要な要素である。入学者に求める基準や競争の厳しさは大学や学部によって大きく異なり、入試が選抜機能を事実上果たし得ない大学・学部も増加しつつある。選抜性が高いとされる大学においても、基礎学力の低下を指摘する声は増しつつあり、選抜性が低いとされる大学では学修意欲のばらつきや学修習慣が身についていない学生にどう対応するべきかなど、それぞれに難しい課題を【参考文献】キャロル•S•ドゥエック(今西康子訳)『マインドセット 「やればできる!」の研究』草思社,2016突きつけられている。しかしながら、見方を変えると、これらの問題を解決することで新たな競争優位を獲得でき、大学の持続可能性を高められる可能性がある。目先の学生募集に力を入れることも大切だが、それ以上に高校から大学に至る教育の実情と入学してくる学生の実態を直視し、自校で何ができるかをとことん考え、自校ならではの教育を確立することこそ、生き残るために最も重要なことではなかろうか。その答えは政策文書にも評価基準にも書かれていない。規模や選抜性を問わず、学内には学生に向き合い、試行錯誤を繰り返しながら、優れた実践を行っている教員が必ずいるはずである。そのことを最もよく分かっているのは学生だろう。学内だけにとどまらず、その周辺、全国、世界を見渡せば優れた教育実践は数多く見つかるはずである。かつて国が特色GPや教育GPなどで優れた取り組み(Good Practice)を支援し、その普及に力を入れた時期がある。これらの支援策は一定の成果があったと評価しているが、これらを通して我が国の高等教育がいかなる知識・経験を手に入れ、共有できたのか。改めて検証する必要がある。仮に、予算面での支援を伴わなくとも、全国の大学の現場で組織単位あるいは個々の教員レベルで行っている優れた実践事例を顕彰し、波及させることも一つの方法だと思われる。戦略において最も重視すべき要素の一つはポジショニングである。設置形態、規模、選抜性、学問分野、立地、地域性などにより、有利不利は当然にあり、それぞれに直面する問題の性格や大きさも異なる。それを直視し、問題解決に取り組むことを通して自校の立つべき位置を定め、その位置での強みを確立して、さらに磨きをかけ続ければ、持続的競争優位を確立することもできる。トップマネジメントも教職員もこのようにマインドセットを転換することで、淘汰・再編の時代における生き残りの道筋を見いだすことができるのではなかろうか。中小規模校に固有の課題をどう克服するか学生の成長を促す自校ならではの教育の確立
元のページ ../index.html#69