真の変革の起点は現実の直視と危機感の醸成7割規模で成り立つ体質を作り上げる学修環境を守るための最善の努力と多様な選択肢69リクルート カレッジマネジメント244 │Apr. - Jun. 2025需要縮小時代の大学経営に求められるものは「真の変革」であり、そのためにも「現実の直視」と「危機感の醸成」は必須の要件である。ここでいう現実には現在と将来の両方が含まれる。「現在」については、足元の学生募集状況と財政状況等を過去からの推移を含めて正確に把握し、経営層とそれを補佐するスタッフは常に頭に入れておかなければならない。これさえ押さえておけば良いという「肝となる数字」を見定め、それを適時適確に把握することは経営の基本であり、全ての出発点となる。「将来」については、答申の前提となる推計が示す通り、気に増すことを考えると、15年から20年先までを視野に入れたうえで、経営の切迫度に応じて5年ないし10年程度の財政シミュレーションを綿密に行う必要がある。その際には、楽観的な仮定を排除し、現実的な客観的前提に基づくことが重要である。選択的情報処理という心理学や認知科学の概念があるが、私達は自身の先入観や期待に影響を受け、不都合な情報から目をそらす傾向があり、それが変革への抵抗の大きな要因の一つとされている。経営層自らが現実を直視したうえで、そのことを正直かつ丁寧に組織内に伝えることで危機感を醸成することが大切である。健全なる危機感を広く根づかせたうえで、構成員一人ひとりの当事者意識をどう高め、真の変革につなげるか。全てはそこから始まる。需要縮小の時代において何を重視して経営を行うかは設置形態等によっても異なる。しかし全ての大学に共通する課題は、入学者の質を確保し、高等教育機関としての持続可能性を確かなものとすることである。そのためには、現在の7割程度の学生数でも経営が成り立つ基盤を整えることが重要である。答申においても、2024年時点で約63万人いる大学進学者数が2040年には現在の73%に当たる約46万人にまで減少するとの推計が示されている。学生獲得競争に打ち勝ったとしても現在の定員規模を維持したままで入学者の質を確保することは至難である。加えて質・量の両面において教員や職員の採用が一層難しくなることも予想される。規模を縮小しながら高い質と多様性・柔軟性を有した持続可能な大学をどう築き上げるか。新たな発想に基づく戦略転換が求められている。より具体的に今後の経営戦略において何を重視すべきか考えてみたい。次ページの表は、私立大学を設置する学校法人を念頭に、経営の切迫度と規模のマトリックスで9つのカテゴリーを設け、それぞれにおいて特に重要と考える視点を3つから4つに絞ってキーワード的に示したものである。経営の切迫度と規模に関しては厳密な基準を設けておらず、経営の切迫度が高い大規模校が実際に存在するか等の検証も行っていないことをあらかじめ断っておきたい。以下、いくつかのカテゴリーを取り上げて説明する。最も厳しい状況に置かれているのは左上に記された「経営の切迫度の高い小規模校」であろう。このカテゴリーにある大学は、まず最初に今の経営体力でいつまで在学生の学修環境を守れるかを見極めておく必要がある。大学は、学生を受け入れた以上、卒業まで教育を行う重い責任を有し、彼ら彼女らにとって大切な学生生活の環境を守っていかなければならない。教職員の雇用問題もある。突然の経営破綻を避けるために最善を尽くす必要がある。そのために重要となるのが、後述のインタビュー内でも強調されている募集停止シミュレーションである。また、安易な学生確保の見通しに頼るのではなく、抜本的なコスト削減で早期収支均衡を目指すことが大切である。さらに厳しい事態に備えて、学部譲渡、法人合併、解散等あらゆる選択肢を用意しておく必要もある。この対極に位置するのが右下の「経営の切迫度が低い大規模校」である。同じカテゴリー内でも選抜性の高低等に100万人割れの2035年頃から18歳人口の減少速度が一
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