カレッジマネジメント246号
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リクルート カレッジマネジメント246│Oct. - Dec. 2025教育の補習的教育に多くの資源を費やすことは大学教育の形骸化や大学の存在意義の否定につながるとの見方があって当然である。2つめは、費用対効果、あるいは公的資金の効率的配分という観点での問題である。財政制約が厳しさを増すなかで、我が国の教育研究力を維持・向上させるためには、それに寄与できる大学への重点的な支援が一層求められる。このような状況において、基礎学力の引き上げに大きな比重を置かざるを得ない大学に助成を行うことに合理性はあるのかという疑問である。3つめは、教育責任の所在の曖昧化である。高等教育段階に進むための基礎学力は本来初等・中等教育段階で形成されるべきであり、その問題の根本解決を放置したまま、基礎学力の不足を大学教育で補い続けた場合、3つの教育段階を前提にした教育制度自体が意味をなさなくなる可能性がある。4つめは、社会で活躍するために必要な能力や態度を養う場は大学に限らないという考え方である。専門学校も有効な選択肢になり得るし、高校卒業後に就職し、仕事を通して能力を身につけながら、多様な教育・訓練機関で汎用的または専門的な能力を培い、キャリアの幅を広げるという生き方もあり得る。2つめの費用対効果や資金の効率的配分に対しては様々な見方があるだろうが、その他の視点についてはあるべき姿として、大学関係者を含めて多くが理解できるものと思われる。初等、中等、高等と教育段階を経るごとに学力が着実に積み上がることこそ理想であるが、それとはかけ離れた現実があることも確かである。本連載でも言及したが、高校生が塾や家で勉強する時間の二極分化が起きており、授業の理解度や満足度も学年が上がるごとに下がる傾向にあることが明らかになっている。文部科学省国立教育政策研究所が3年ごとに調査してい7月に公表された。対象となる小学6年(国語・算数)と中学3年(国語・数学・英語)の全科目で前回調査からのスコア低下が認められている。要因の分析と継続的な調査による慎重な評価が必要だが、学校外での勉強時間が減少し、「学校生活が楽しければ、良い成績をとることにこだわらない」保護者の割合が増加するなどの結果も示されている。このような現実を踏まえると、学校教育段階の最終に位置する大学が、基礎学力や学習習慣の再形成の役割を担わざるを得ない面があることも否定はできない。社会の側を見ると、規模の大小を超えてあらゆる業種・職種において人材の確保、採用後の育成、定着率の向上は最大の課題となっている。理想とすべき姿を追求しながらも、現実を踏まえた大学教育の再構築が求められている。これらは基礎学力や学習習慣に焦点を当てた議論だが、大学は学力の向上だけではなく、社会や組織で生きていくために必要なソーシャルスキルを育む場でもあるという点も重要である。主体性、コミュニケーション能力、対人関係スキル、問題解決能力、自己管理能力などは、雇用者側が新卒者や若手人材に求める要素の上位を占めるものである。これらのスキルを大学4年間で身につけることができるとすれば、大学が果たす社会的役割は決して小さくないといえよう。また、米国の発達心理学者エリクソンが「モラトリアム(moratorium)」と呼んだ、社会に出るための準備期間またはアイデンティティ確立に向けた探索期間として大学4年間を意味づけることもできる。ただし、この猶予期間を引き延ばし、大人になろうとしないという負の現実(いわゆる「モラトリアム人間」)があることも留意する必要がある。重要なことは、知識の獲得や学力の向上にとどまらない「場としての機能」が大学にはあるということである。これは選抜性の高低に拘らず全ての大学にとって大切な役割である。十分な基礎学力や学習習慣を身につけないままに入学してきた学生に対して、大学も様々な取り組みを行っている。大学教育を受ける前提となる基礎的な知識等についての教育を意味するリメディアル教育に力を入れる大学も多い。入学前教育、初年次教育、基礎教育などの枠組みの中にる「経年変化分析調査」の4回目(2024年度)の結果が本年大学における多様な人材育成機能に着目すべき多様な取り組みの必要性と実施に当たっての課題39

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