カレッジマネジメント247号
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13(2)不明瞭な授業の達成目標(3)授業改善の指針の不足達成目標がはっきりしないことは、学生の評価や、授業自体の改善の難しさへとつながる。本来であれば、学生の学習状況を適切に評価し、もし目標に達していなければ、授業内容を改善していくべきであるのに、学習の評価ができなければ、達成状況が分からない。その結果、便宜的に授業直後の学生からの「参考になった」「楽しかった」といった感想や満足度をもとに授業の良し悪しを評価しようとしてしまう。しかしこうした満足度調査では、学生にとって新規性の高い授業や楽しい授業に対して高い評価がつきやすく、たとえ教育内容に問題があろうと問題に気づけないため、授業の改善も行われづらい。アントレ教育はこうした要因により適切な設計や改善が行われづらいという、構造的な問題を持っていると考えられる。この状況に対し授業設計や評価を行いやすくするために、アントレ教育を通じて涵養するべき標準的な「アントレプレナーシップのコンピテンシー(資質・能力)」として、日本版 EntreComp(3) v1 を定めることを試みた。日本版 EntreComp v1 は、教職員が自らプログラム 設 計 を 行 う 際 に 参 照 で き る 枠 組 み と し て、ア ン ト レ教育で伸ばしたいコンピテンシー(資質・能力)を整理したものである。EU が 2016 年に定めた EntreComp(Entrepreneurial Competence Framework)を参照しつつ、日本の高等教育の現場で使える最小単位へと再設計している。日本版 EntreComp v1 開発の経緯と特徴・狙いリクルート カレッジマネジメント247 │Jan. - Mar. 2026(Lackéus(2015)より筆者ら作成)的な開発やイニシアチブを取ることといった、一般的な場面に応用できるより広い知識やスキル、態度が含まれる。対象者により授業内容はビジネスを扱うか、そうでない内容を扱うかを配慮しなければならないが、これらの概念の混同により、教育内容が混乱する傾向にある。通常の教科は、発達段階や専門科目の学習状況に応じて、「何を (What)」「いつ教えるか (When)」がおおよそ定まっており、教員は「どう教えるか (How)」に注力すればよい傾向にある。しかし、アントレ教育はいずれも自由度が高い。そうした自由度の高さは、教員の創意工夫を促す良い面もある。一方で、教員自身が「何を授業の到達目標とするのか」を強く意識してコースを設計し、しかもその内容が的確でなければ、学生の学習には結びつかない。例えば、一般的なビジネスの方法を教示したところで、アントレプレナーシップが身につくとは限らない。本来、コースをデザインする際には、望ましい結果を特定し、次に評価の基準や方法を決定し、最後に具体的な授業内容を設計するという逆向き設計が望ましい。すなわち、最初に「どの資質・能力をどの水準まで育てるか」を定め、その達成を測る評価観点・評価方法を先に設計し、最後に実際の授業の内容を設計すべきである。しかし現状は、その達成目標が曖昧なまま授業設計が進められることが多い。• 個人的な開発• 創造性• 自立• イニシアチブを取る• 行動志向• 機会の特定• 事業開発• 自営業• ベンチャーの創造と成長すなわち起業家になること 特集 1 アントレプレナーシップ教育の現状と課題広義アントレプレナーシップ 狭義アントレプレナーシップすなわち起業家的になること

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