カレッジマネジメント247号
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15政策を題材にした4 日間のワークショップ活用例 2アントレ教育は決してビジネスにとどまるものではない。そこで『公民』とアントレ教育を接続し、「社会課題を政策で解決する」という活動の中でアントレプレナーシップを涵養する試みも行われている。このワークショップでは、国や地域の社会課題を題材とし、社会課題の調査→課題の特定(仮説構築)→住民インタビュー(仮説検証)→解決策となる政策の立案→行政担当者・議員へのピッチ→振り返り、という流れで構成されている。コア・スキルとの対応関係としては、社会課題を深掘りするところに時間をかけるため「問いを立てる」「情報を探索する」に重きを置いている。一方、立案する解決策については既存政策の参照や転用が前提のため、「アイデアを作る」は弱い。ここまでアントレ教育について述べてきたが、アントレ教育に関わる授業の設計の基本は、ほぼ全て通常のインストラクショナルデザイン(ID)や教育学の知見に基づいている。アントレ教育の設計を学ぼうとする際には、まず IDや教育学の書籍を読むことをお勧めする。また、アントレ教育は、ビジネス教育とは異なる設計をするべきだとも強調したい。新たにアントレ教育が求められてきたのは、商学部やビジネススクール等で行われてきた従来の教育では成せなかったことがあったからこそだと考えれば、それらと異なる教育ができて初めて、アントレ教育はその意味を持てるようになる。そしてもし今後、アントレ教育が広く市民権を得られるとしたら、それ今後のアントレプレナーシップ教育の展望と、高等教育の教職員への期待(1) 田 辺 大 . (2022). ソ ー シ ャ ル・ ア ン ト レ プ レ ナ ー シ ッ プ(social entrepreneurship)の日本語訳の研究 . ノンプロフィット・レビュー , 21(1+2), 71–80. https://doi.org/10.11433/janpora.NPR-D-21-00005(2) Lackéus, M. (2015). Entrepreneurship in education: What, why, when, how. (OECD Local Economic and Employment Development (LEED) Papers, No. 2015/06). OECD Publishing. https://doi.org/10.1787/cccac96a-en(3) European Commission. Joint Research Centre. (2016). EntreComp: the entrepreneurship competence framework. Publications Office. https://doi.org/10.2791/593884リクルート カレッジマネジメント247 │Jan. - Mar. 2026は「ビジネスでの起業ができる人を育てる」という目的を超えて、「様々な状況で起業家性を発揮できる人を育てる」ことができる教育として評価されるときであると考えている。全国の高等教育機関の経営層に対する期待やメッセージアントレ教育を適切に行っていくためには、ここまで議論してきたような概念を峻別したうえで、自校の学生にとって本当に望ましいアントレプレナーシップとは何なのかを明確にする必要がある。そのうえで、アントレ教育を受けた学習者が、どうなっていてほしいかをきちんと考えてほしい。ビジネスの起業に関する講義を 1 コース用意し、15 時間程度学習すれば、アントレプレナーシップを身につけられるかというと、決してそんなことはない。数年をかけてどう涵養していくのか、また正課外の活動をどう用意していくのか等も重要な視点である。そうした意味でも、より広い視点でアントレ教育を考えてほしい。アントレ教育は、単なるビジネススキルを教えるものではなく、人間の成長や可能性を伸ばす全人的な教育の側面に近い。そのため、その概念はしばしば捉えどころがなくなりがちであるが、逆に言えば、決して特別なものではない。ID や教育学の知見が使えるのもそのためである。その意味で、自校でのアントレ教育の実装を考えることは、「自校の教育とは何か」を問い直す良い機会となるだろう。アントレ教育の検討を通じて、自校の教育の成果とは何か、学習者に何を身につけてもらうべきかを深く考える機会として活用してもらいたい。特集 1 アントレプレナーシップ教育の現状と課題

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