キャリアガイダンス保護者版2021
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 高校受験に失敗した時、父に言われました。「がんばったかもしれないが結果は失敗だ。入学先で挽回しなさい」(*1)。それで高1は、勉強も部活も、毎日朝5時から夜まで少しも手を抜かずがんばりました。辛かったけど、結果を逃す恐怖に駆られていました。年度末には学年トップの成績を修め、翌年の奨学金を獲得。ところが私が感じたのは、嬉しさより「この成績を維持するため、高2もまた地獄の1年を送るんだ…」という絶望でした。では何のためにがんばっていたんだろうと考えて気づきました。勉強したのは、自分がやりたいからではなく、父親に認めさせるためだったと。 勉強は自分の気持ちを偽って周りに認められようとする行為に思え、嫌悪するようになりました。学校も休みがちになり、高2の1学期の成績は最下位に。 先生や父には「ちゃんと考えてるから」と強がって見せましたが、内心では、高校を辞めたい、でも勉強を放棄してこの先どう生きていくのか、自分には何の価値もないとどん底に沈んでいました。母が不登校を責めず「家事を手伝ってくれて助かるわ」などと肯定的に接してくれて救われましたが、そんな母でも高校中退には強く反対しました。 自分が本当に好きなことで、どこまで通用するのか。そう考えて思いついたのが、小学生の頃から書き溜めていた小説を完成させ、新人賞に応募することでした。役に立たないことをしていないで学校に行けと言う父を宥めるため、登校だけはすることにし、毎日小説を書き続けました。 応募の結果は一次選考通過止まり。でも大人に混じって百名の枠に残れた嬉しさから、心境変化が起きました。小説の舞台にした西洋史をもっと深く学びたいと思うようになったのです。高2の終わりのことでした。 合格するにはAO入試しかない(*2)と思いました。志望校が決まった後の3〜4カ月は、すべてを試験課題に傾けました。先生と何度も相談、何度もプレゼンを見てもらい、自分でも合格を確信できるほどに。こうして志望校に合格できたのです。 今思い返して、嫌悪していた勉強に再び取り組めた一番の支えは、高校中退に反対したときの母の言葉だった気がします。「あなたは大学の勉強ならきっと楽しいと思うはず」。自分のことを一番知る母の見立ては、ずっと心の奥に引っかかっていて、だから西洋史を学びたくなった自分の変化を素直に受け入れられたんだと思います。 今、大学3年生。学びたいことを学べる楽しさを噛み締めています。あの時、高校中退だけは許さなかった母にとても感謝しています。*1不本意入学の捉え方不本意入学は引きずらないことが大切。多くの生徒が学習成績で分けられ進学した高校入試と違って、高校からの進路は、それぞれが希望する人生の方向へ分かれていきます。成績挽回のステージではなく、新たに自身の可能性を拓いていくステージと捉えて、スタートを切ってほしいです。そもそも「失敗」とは何か。ここからは大きな視野で、何が失敗で何が成功だと思うのか、そんなところから話し合っても良いですね。*2AO入試への挑戦悩みや葛藤を、小説の執筆という自分自身が夢中になれることでの挑戦に昇華させ、そこから西洋史という学びたいことを見出したのが素晴らしいです。強い進学動機があり、文学賞一次選考通過の実績もあるので、まさにAO入試(現・総合型選抜)向きの生徒さんですね。とはいえ、苦しみの中でがんばった1年次の学習内容や、登校再開で確保できた取得単位数や出席日数も、進路実現の大切なベースになっています。47forParent 2021

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