高校時代はほとんど勉強しませんでした。もともと、勉強は普通で十分、上を目指す意味がわからない(*3)と思っていました。それでも中学までは、各科目の評価基準から普通レベルの点数や宿題提出率をつかみ、逆算して勉強するくらいは真面目でした(笑)。それが高校では赤点ギリギリキープになった。きっかけは、中3の時に出た、ローラースケートスピード競技の大会です。 サッカーのようにプロへの道がある競技ではないので、それまではただ目の前の試合でいい成績を出したくてがんばっているだけだった。ところがこれまで見たこともないような高いレベルの世界に衝撃を受け、考えが変わりました。たとえ将来がないスポーツでも、好きなことを突き詰めていけば、こんなふうにまったく知らなかった新しい世界が広がってるんだ!と思ったのです。 高校では、全力でスケートを突き詰める決意をしました。練習方法、体づくり、栄養…すべて自分で世界レベルを基準に逆算し、わからなければ情報をもつ人を探し、教えを請う。それが習慣になりました。大会成績も上がっていき、楽しかったです。 進路のことは、正直、頭にありませんでした。スケートへの気持ちが強すぎて、受験や将来の不安が湧く余地もなかった(*4)。高3になって、選手を続けるため大学進学を決めましたが、受験勉強は無理。7月のアジア選手権が終わってからと、腹を括りました。 選手権で、自分でも納得のいく成績が出せ、終了後はすぐ、受験勉強にシフトできました。練習環境の良い関東に拠点を移すことにし、志望校はスケートリンクとの距離で決めました。学力に関しては、スケート同様に目標からの逆算方式。赤本を解きながらどの単元をどのレベルまで上げるか定め、正しい情報をもつ高校の先生に教えを請う。それでは足りず塾にも入りました。閉館時間まで自習室に居残り、大学生や講師をフル活用。半年の猛勉強で、東洋大学の一般入試に受かりました。 うちの親は教育者ですが、今まで一度も成績を咎められたことはありません。スケートにも、応援は熱心でしたが「こうしたら?」と意見されたことはない。自分でしっかり逆算してやっているのを見ていたんだと思います。受験勉強の頃、「あなたはそういう性格だから、何があっても生きていける」と言われ、すごく心強かったことを覚えています。 大学では、他の分野で活躍する友人とも交流したり、留学で海外のスケート事情を学んだり、また世界が広がりました。もうすぐ卒業ですが、将来は、子どもたちが好きなことを通して世界を広げていく手助けになるような活動をライフワークにしていきたいです。*3上を目指す意味がわからない「上を目指せ」という言葉に反発する生徒は多いです。「上ってなんですか?」と。そもそも「上」の価値は一つだけではないはず。自分が進みたい世界、もっと見たい世界こそが「上」なのです。それが見つかれば、勉強をする意味も自分でわかる。まずは、本人にとって目指したい「上」とは何なのか、話し合ってみると良いかもしれません。*4勉強以外に夢中。受験はもうダメ?没頭すること自体は、高校時代、味わってほしい貴重な経験です。部活動や学校行事はそのために設定されており、その中で進路につながる動機が育つことも多いです。達成感や区切りが、受験勉強へのバネになることも多いですし、団体の部活動の場合は、「励まし合い」「団結力」「部のプライド」といったチーム力が、個人だけのがんばりを超える進路実現になることもあります。むしろ主体的に惹かれるものがない温度の低い子のほうが心配です。48forParent 2021
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