皆さんが共通してわが子に願うのは「無事に自立し、社会を生き抜いていけること」でしょう。でも、それははたして、そんなに難しいことでしょうか。犬でも鳥でも生き物は、大きくなれば自然と親元から離れて、勝手に生きていきます。 ところが人間だけが「ちゃんと親元から自立できるか。大学くらい出ておかなければ、この先困るのでは」なんて悩んでいる。なぜなら、皆さんは無意識のうちに、お金の心配をしているからです。今の世の中、衣食住すべてお金さえあれば手に入るように見えます。だから「お金さえあれば安心」の裏返しで「お金や稼ぐ力がないと不幸になる」と強迫観念にとりつかれてしまう。 本来は「大学に行く選択肢がある」というだけの話。しかし、わが子がお金に困らず食べていけるかと、無意識のうちに不安を抱えた親は、つい、大学入試や就職で「選ばれる子」になってほしいと願うのです。 私の寺に親御さんが相談にくることがあります。皆さん「子どものしたいことをしてほしい」と口では言います。でも本心では、子どもをそのまま社会に放り出す勇気も、心の準備もない。親自身が、なんの保証もなくこの不確実な社会を生き抜けるか、不安だからです。 ではどうすれば、その不安を手放せるのか。ブッタ(仏)の説かれた戦略は「人格者になる」でした。聖人君子になれという意味ではありません。私たちはつい「自分が恵まれるか」を考えてしまう。でも笑顔やあたたかい言葉、自分にできることのなかから「何を周りに与えられるか」と考える人は、どんな場所でも必要とされて、大切にしてもらえるでしょう。 私もそうでした。生まれた寺を飛び出してアルバイトした先で、店長に大変良くしていただいた。それは寺の厳しい修行で「人に喜んでもらえる仕事をしろ」と言われ続けたので、自然と自分の働く店だけではなく、隣の店の前も掃除していたから。まず自分が「与える」ことで、居場所を得たのです。 保護者の皆さんには、強迫観念のなかで子どもが「選ばれますように」と願うのではなく、「与える人になれば、どんな社会でも生きていける」と安心してほしいんです。仏教とは、苦しみを手放して安心に至る道のこと。親が心から安心していれば、子どもは飛び立つことができます。大丈夫です。「大学くらい…」の裏にある強迫観念佛心宗大叢山 福厳寺住職 大愚元勝たいぐ げんしょう●540年の歴史を誇る禅寺、福厳寺の弟子として育つ。寺を飛び出して32歳で起業。複数の事業を立ち上げる。40歳を前に寺に戻ることを決意。多様な切り口から仏教を伝え、YouTube『大愚和尚の一問一答』は42万登録を超える(2022年2月現在)。ここから対話をはじめよう日頃から子どもと話す習慣がなければ、いきなり対話は難しいでしょう。手っ取り早い方法は、親が寝込むことです。そして掃除や洗濯、ゴミ出しなどの内仕事を手伝ってもらう。1日で無理して起き上がらず3日くらい寝込むと、子どもは「この家のために何ができるだろう?」と考え始めます。これが周りに「与える」訓練になるのです。人生が確実に変わる大愚和尚の答え一問一答公式大愚元勝/飛鳥新社日常で抱えた、停滞感や悩みの出口はどこにあるのか。YouTubeで人気を集める、大愚和尚の人生相談をまとめた一冊。「執着を手放し、視点のシフトを促す」仏教の教えをもとに、実際に生活のなかで視点を変える具体的指針が書かれている。親子で読むのにもおすすめ。内仕事で「与える」訓練を。1日寝込むなら3日寝込んで深く考えるための1冊こんな社会で、わが子が自立して生きていけるか。不安ですよね。でも「与える人」になれば、どんな場所でも生きていける。きっとお子さんは大丈夫です。親のあなたが、心から安心していれば。「お金がないと」の呪縛幸せの鍵は「与える人」27for Parent 2022
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