まさか自分が「料理家」として仕事をするようになるとは、思ってもいませんでした。23歳で結婚するまで、ほとんど料理をしたことがなかった私。料理を始めたころはレシピの一行一行につまずいて、「『いちょう切り』ってなんだ?」とその都度検索。一品作るのに長い時間がかかりました。ところが、やればやるほど料理が面白くなっていったんです。ただのニンジン一本が、私の手と包丁によって形を変えていく過程が楽しい。「どうすれば、お店で食べたあの味が再現できる?」「調味料の量をどれだけ変えたら、味が変わる?」。「?」と思ったことを試してみると新しい発見があり、謎を紐解いていくような気分になりました。料理には〝正解〟がありません。レシピ本とは異なる作り方をしたとしても、自分がおいしいと思えたらそれで良い。その考え方をまさに体現しているのが、義母の平野レミさんです。レミさんは「ごっくんって飲むとき、口の中で味の帳尻が合えばそれでいいのよ」とよく言います(笑)。もし私が、レミさんから「料理はこうするもの」と教わっていたら、こんなに楽しいとは思わなかったでしょうね。レミさんと私のコンビが面白い、とメディアに注目されるようになり、私にもレシピ開発の声がかかったのは、料理を始めてから5年ほど経ったころでした。「私なんかでいいのだろうか」と自信がもてず、料理を改めて学んでみようと食育インストラクターの資格も取得。面白かったのは、食料の輸入に伴う環境への影響や、現代の食環境の問題を学んだことです。作って食べるだけ、ではなく、料理と社会とのつながりにまで目が向くようになりました。 「私だからできることは、なんだろう」少しずつ仕事の依頼が増えてきたころ、自分は一体どういう料理家でありたいのかと考えました。当時メディアで求められるものは「時短」「レンチンだけでできる」といったキャッチーなレシピが多かった。だけど、そうしたレシピばかりを毎日のご飯で作るだろうか。斬新なレシピ開発を得意としている料理家の方はほかにいらっしゃる。私は無理して求められることに応えなくてもいい。「自分に嘘をつかずにできること」の中に、私らしさのヒントがあると思いました。そんなときに、私がSNSに日々投稿していた晩ごはんの写真を見て「レシピ本を作りませんか」と依頼がきました。私の作る晩ごはんは地味なんですよ。例え 4取材・文/塚田智恵美for Parent 2023
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