私が担当している「演技演習」は、五感、集中力、持久力、信じる力を鍛える授業です。声優は自分とは異なるキャラクターを演じる仕事。だからこそ役になりきるためには、幅広い感覚と感性を養い、それを表現できる力が求められます。たとえば「美味しい」というセリフにも自分が経験した「美味しさの記憶」が活かされるのです。私の授業では、発声や演技そのものを学ぶというよりも、たくさんの経験をして、そのときの感情、感触などを五感を駆使して自分の中に蓄積し、いつでも引き出せるように準備しておくことの大切さを伝え続けています。「風」ひとつでも、さわやかな風、ビル風、地下鉄駅構内の風など数えきれないほどありますよね。授業だけでは感性は鍛えられません。日常にいかに興味を持って自分の中に取り入れていくかが大切なんです。
授業中、先生は「興味がないことにもどんどん挑戦して」と学生に声をかけます。次の授業に向けての課題は、「入浴したときの感覚」だったり「カップの中に飲み物を入れて持ったときの感覚」などさまざま。普段意識せずにやっていることをあえて深堀りして体感することをエクササイズのように取り入れ、感性・感情を鍛えます。「これらを面白がってできる学生は、グンと伸びます。与えられたセリフを上手に読むだけなら誰でもできます。自分の中で感情を生み出し、自分にしかできない表現をすることがプロの技なんです」(杉山先生)
入学までに身につけておいてほしいのは、基本的な国語力。台本が読めなければ前には進めません。また、声優に必要なのは変わった声やアニメ声ではなく普通の声。だから誰にだって可能性があるんです。
専門:演技
略歴:青二プロダクション所属。日本を代表する声優として数多くの役を務めるほか、洋画の吹き替えやナレーターとしても活躍。代表作はアルプスの少女ハイジ「ハイジ」役、キテレツ大百科「コロ助」役など。2009年度声優アワード功労賞受賞。大阪芸術大学芸術学部放送学科教授。「声優は俳優と違って人だけでなく、動物や架空のキャラクター、モノにもなれます。魅力的でやりがいがある仕事ですよ」(杉山先生)。