コロナ禍によって映画館が封鎖されるという事態を目の当たりにし、今やれることは何かと考えたとき、僕が感じたのは“音楽を奏でるように映画をつくりたい”ということ。震災時に立ち上がったミュージシャンたちがそうだったように、僕ら映画人も、リモート収録やライブ配信という手段を使えば、リアルタイムに人々の心に寄り添う作品を届けられると考えました。そうして生まれたのが、『きょうのできごと a day in the home』など一連のショートムービーです。感染防止で近づくことが許されない男女の姿など、ラブストーリーの肝になる“距離”という設定をコロナが与えてくれたから、題材としても非常に面白いものになりましたね。
少年時代に映画『影武者』(黒澤明監督)の撮影現場を見たことが原点。騒然とした現場の空気にすごい熱量を感じたし、忘れ難い経験でした。完成した映画を観てみると、それは自分の想像をはるかに超えたもの。子ども時代に想像を超えたものを見るという経験は貴重ですよね。そして、あのとき現場で甲冑に泥を塗っていたおじさんたちの一つひとつの作業が、この映画のリアリティ、迫力を生んだと子どもなりに理解したわけです。映画の細部をつくっている黒澤組の“スタッフ”に憧れて、「あのひとりになら自分もなれるんじゃないか?」と思ったのが僕の原点。今思えば映画監督ではなく、そこをめざしたことが僕にとってよかったのかもしれません。
表面的なうまさよりも、なぜその表現にたどり着いたのかというプロセスが大事。海外の映画祭を見ていても、先進国でない国の映画人たちがつくった無骨な作品の方が、よほど新しくて衝撃的だったりする。全然ヘタくそでいいんです。自分が求めているものは何か?という純度を大切にして、映像制作にのぞんでほしいですね。
(有)セカンドサイト 所属/映画制作科/1989年卒/映画監督として映画『リボルバー・リリー』、映画『窮鼠はチーズの夢を見る』、映画『劇場』など数多くの作品を手掛ける