【法学部・政治学部】合格者の志望理由書を公開!NG例・プロの解説付き
この分野の志望理由書では、大きなテーマを自分の体験や関心と結びつけて述べることが求められる。
合格者はどのように表現していたのか、実例を見てみよう。
さらに見落としがちなポイントは、一方の意見だけに偏らず、複数の視点を踏まえて自分の考えをまとめることだ。
先生の解説から、志望理由書に求められる視点や構成の考え方を、しっかりと身につけておこう。
合格した先輩の志望理由書
私立大学 法学部政治学科 総合型選抜 合格者
志望理由書
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東葛地域で東日本大震災の災害廃棄物の広域処理をめぐり、行われた論争について知り、地元柏の災害廃棄物の広域処理がなぜ対立したのかを国と自治体の連携に着目して探究することにしました。②柏市の事例を詳しく知るために環境部廃棄物政策課にインタビューした際には、『柏市などの中核都市では人口が多く出る災害廃棄物の量も多く、大きくて平坦で広い場所が見つかっていない状況であり、国に人口密度を考えた広域処理を考えて欲しい』と述べていました。私自身の考えとしては、現時点で国の広域処理に関して適切なリスク管理がされていない。その中で、受け入れてくれる市町村を探すのは困難な状況である。もっと国と自治体が連携して、災害時を想定し、廃棄物の処理方法を考えていかなければならないと思っています。
以上の探究を踏まえて今後の学習計画としましては、貴学で 配分的正義と手続き的正義の比較をするために政治哲学の授業を履修し政治思想について探求したいと思っています。また行政法の授業を履修して行政の動きについて理解して、学んだことを活かして災害時と通常時ではどのように行政の動きに違いがあるのかについて学びたいと思っています。その他にも環境問題に対する政策手段を学ぶために環境政治学を履修し持続可能なまちづくりをするためにはどのような政策が必要か調査したいと思っています。
学年が上がるにつれて授業内容は難しくなってくるので、わからないものについて積極的にフォロー制度を活用し復習などを行っていこうと思っています。また法学資料室を活用して、災害廃棄物受け入れの問題やゴミ処理場の受け入れの問題について過去にどのような論争が行われてきたのかについて探究したいと思っています。
将来国家公務員を希望していますので、一年次より、パブリックサービスキャリアコースを利用して、自己研鑽に励みたいと思っています。貴学の分析と応用コースを選択してオムニバス・セミナーなどを通して実際に働いている人の意見を聞き、様々な立場や角度から物事を考え、 少人数教育である特徴を活かしてゼミのメンバーや教授と討論を積極的に展開し、よき市民となるべく自分を知り、政治を深く理解したいと考えています。将来、国家公務員として国民の立場に立った社会貢献ができるように研鑽を重ねていきたいと考えています。
先生の解説
ここからは、志望理由書指導のプロ・小柴大輔先生に、上の志望理由書の「よいところ」を解説していただき、「よりよくするための視点」をアドバイスしていただこう。
◎はVery Good、○はGood、△は修正するとよりよくなるポイントだ。
※本解説はスタディサプリ進路の講師が、志望理由書のよい点とその理由を解説したものであり、合否の判断基準を示すものではありません
教えてくれるのは
小柴大輔先生
Z会東大進学教室や巣鴨にある大学受験塾ワークショップで講師を務めるほか、ロースクール(法科大学院)や司法試験受験の予備校においても一般教養小論文を指導している。
感覚ではなく論理的に答えを導く指導に定評があり、「現代文に対するイメージが変わった」と受験生から圧倒的な支持を集めている。
スタディサプリでは、現代文のほか、小論文や総合型選抜・学校推薦型選抜対策講座を担当。
◎①自分が住む地域の課題をきっかけにしている点はVery Good!
政治や法律というテーマは、ともすればスケールの大きな話に終始してしまいがち。
しかし、そうなると「なぜ自分がこの分野を志望するのか」という部分の説得力が希薄になる恐れも。
志望理由書では、大きなテーマを自分に引き寄せて論じることが大切。
その意味で、この志望理由書は、身近な地域の問題をきっかけとしているのが評価できるポイントです。
自分自身の暮らしに関係のある話に引き寄せることで、自分だからこそのストーリーにまとめることができています。
◎②探究の授業で理解を深めたことをアピールしている点はVery Good!
高校の探究の授業での活動は、志望理由書で重要になる「どのように関心を深めたか」という項目との親和性が高い。
役所の担当者にインタビューしている点などはほかの受験生との差別化ポイントになります。
この段落では、どのように関心を深めていったかを具体的に詳しく書けているのも非常にいいですね。
△③探究の過程で読んだ本について記載があるとさらにいい
志望理由書では、その分野について関心があり、勉強していることをアピールするために、実際に読んで参考になった本の書名を盛り込むのがおすすめ。
この志望理由書の考察の深さから推測すると、考えを掘り下げる段階でこのテーマに関連する本を読んで知識を深めている可能性が高いです。
もし、そうならぜひ書名を挙げておきたいですね。
○④専門的用語は、勉強していることのアピールになるのでGood!
「配分的正義と手続き的正義」といった専門用語は勉強していないと出てこない言葉。
背伸びしてよく理解できていない用語を濫用するのはNGだが、しっかりと理解できていて適切に使用されているのであれば、勉強していることのアピールにもなる。
◎⑤具体的な科目名を挙げている点はVery Good!
これ以降の段落も含めて具体的な科目名が挙げられているのは非常にいい。
さらに、科目名を羅列するだけでなく、その科目を自分が学びたいことと結びつけて記述できているのはアピール度が高いです。
◎⑥授業以外にも学びたい内容が詳細に書かれていてVery Good!
単に「法学について学びたい」「政治学について学びたい」という表現だと具体的に何を学びたいのかが見えてこないが、この志望理由書では、授業以外でも探究したいテーマが具体的に詳しく書かれていて伝わりやすい。
△⑦どのような国家公務員になりたいのかまで示したい
せっかく「災害廃棄物の受け入れ」という具体的なテーマを取り上げているので、具体的にどのような省庁でどのような役割を担う国家公務員として働きたいのかまで書けているとさらによくなる。
「国民の立場に立った社会貢献ができるよう」という表現もやや抽象度が高く、ふわっとしています。
どのような社会貢献がしたいのか、具体的に書けるとよりいいですね。
目標は大学の4年間で変わっても問題ないので、現時点での目標を具体的に書くようにしましょう。
法学部・政治学部の志望理由書NG例
政治・法律にかかわるテーマは、立場によって大きく意見が分かれることが多い。
それだけに、対立する意見のどちらかに偏った主張をし、吟味もなく一方的に正しいものとして書いてしまう人もいるが、志望理由書でそれをやってしまうと、バランスを欠いたマイナスの印象を与えてしまうこともあるので注意しよう。
また、世間一般で問題になっているテーマを取り上げるのはOKだが、そのテーマについて“自分なりに”考察を深めた過程が書かれていないと、ありきたりな志望理由書になってしまいやすい。
そのほか、「社会の役に立ちたい」「世の中をよくしていきたい」などの表現も、このジャンルの志望理由書ではよく使われますが、もう一歩踏み込んで「どんな職業に就いて、どう役に立ちたいのか、どうよくしていきたいのか」までを具体的に書けていないと、「あまり考えていないな」という印象をもたれてしまうので気をつけてください。(小柴先生)
いくつか具体的なNG例を紹介しておこう。
偏った意見に終始するのはNG!
<やりがちNG例>
私は、移民政策は日本社会にとってマイナスでしかないと考える。
なぜなら、それによって伝統的な日本の生活文化が壊され、治安も悪化し、場合によっては地域を乗っ取られてしまう恐れもあるからだ。(以下、移民政策批判に終始)
\改善ポイント/
移民政策に反対という意見をもつことは否定しませんが、移民政策について考えているなら、賛成意見や移民のメリットも取り上げたうえで、比較して考察したプロセスを語るべき。
この例に限らず、何か政治的な意見があるなら、同意見の情報源だけに頼るのではなく、反対の意見を論じている本も読むようにしましょう。
それによって考察の深みも増すはずです。
自分なりの考察に欠けているのはNG!
<やりがちNG例>
世界ではまだまだ子どもたちが貧困で苦しんでいる国も多いといわれています。
新聞やテレビのニュースでもそのような報道が多くなされており、何としても解決しなくてはいけない問題だと感じています。
〇〇教授の著作『〇〇〇〇』ではこの問題について多角的に論じられており、深く感銘を受けました。
私も〇〇教授のような視点をもって、政治の分野で問題解決に取り組んでいきたいと考えています。
\改善ポイント/
参考文献を挙げているのはいいのですが、その本を読んで、自分なりにどう考えたかを書くのが志望理由書では重要です。
具体性に欠ける表現が多いのはNG!
<やりがちNG例>
法律学科では幅広く法律について学びたいと考えています。
そして、卒業後は、学んだ知識を生かし、社会に貢献していきたいです。
\改善ポイント/
「法律について学びたい」「社会に貢献したい」というのはふわっとしすぎていますね。
「法律の何をどのように学びたいのか」「どんな職業に就いてどのように社会に貢献したいのか」を具体的に書くようにしましょう。
法学部・政治学部の志望理由書のポイント
では、改めて法学部・政治学部の志望理由書を書く際のポイントをまとめておこう。
政治分野は日々触れるニュースがきっかけに使える
法学部・政治学部系統は普段目にするニュースがきっかけとなることも多い。
そのため、日々のニュースに対して「自分はどう考えるか」という視点をもつことが重要なポイント。
例えば、国際紛争、外交問題といったグローバルなテーマから、人口減少などの国内問題、夫婦別姓や対コロナ政策のような時事的な問題まで多様なテーマがあるので、特に自分の関心を惹くテーマを探してみましょう。
自分が住む地域がどのような課題を抱えているかも要チェック
法学部・政治学部系統を志望する高校生は、地方公務員志望の人もいるはず。
その場合、例えば、急激な少子高齢化など、自分が住んでいる地域が抱える課題に注目すると、地方公務員という目標と結びつけたストーリーをまとめやすい。
公務員志望の場合は、公務員になって何をやりたいかまで書く
公務員志望の場合、目標が単に「公務員になりたい」にとどまってしまうと、「単に安定した仕事に就きたいだけ=将来的な展望がない」と受け取られてしまう。
例えば、「地方公務員になって地域の環境政策推進に貢献したい」「外交官になって日本の国際的影響力を高めるような外交政策立案に貢献したい」など、具体的に記述できるといいですね。
法学部の場合は、どんな法律のプロになりたいかまで書く
法学部の場合は、公務員以外だと弁護士、裁判官、検察官、司法書士、弁理士など国家資格系のプロフェッショナルや企業の法務担当などを目標とする人も多いだろう。
特に弁護士志望者は多いが、これも単に「弁護士になりたい」という記述だけでは弱い。
ひとくちに弁護士といっても、身近な法律トラブルを解決する市民法務を専門とする弁護士もいれば、企業間の契約などの企業法務を専門とする弁護士もいます。
どのような弁護士を目指すのかまでを具体的に記述できるとほかの受験生との差別化を図れるはずです。
また、弁護士の仕事の多様性について調べることは、中身の濃い志望理由書を書くうえでもプラスになります。
本を読む場合は、異なる意見・立場の複数を読むとベター
NG例でも解説したように、法律や政治に関連するテーマは、社会的にも意見が二分されることが多い。
その場合、一方の意見・立場の本だけを読むと、主張が偏ってしまう恐れも。
例えば、移民政策や死刑制度などが典型例ですね。
ですから、両方の意見を知ったうえで自分はどう考えるかという意見をまとめることが大切です。
志望理由書にも異なる意見・立場の書名が挙げられていれば、それだけでも両者の意見を踏まえて考えていることをアピールすることができます。
志望理由書対策に役立つ本
志望理由書を書くにあたっては、関連する本を読んで理解や考察を深めておくことも重要。
そこで、法学・政治学に関連する分野のおすすめ本を小柴先生に紹介してもらった。
関心を広げ、志望動機を言語化する助けになるものなので、ぜひ読んでおこう。
法学部志望者におすすめの本
『父と娘の法入門』大村敦志(岩波ジュニア新書)
民法の東大教授。父娘の会話で進行する生活に身近な法律入門。続編『法ってどんなもの─ロースクール生と学ぶ』も会話形式で日常的な法律のイロハを学べる。
『中高生のための憲法教室』伊藤真(岩波ジュニア新書)
司法試験予備校での指導者として知られる著者が、憲法についてわかりやすく解説。
『キヨミズ准教授の法学入門』木村草太(海星社新書)
中学生のときに日本国憲法を読んで、えも言われぬ「解放感」を得たという著者による「世界一敷居の低い法学入門書」。
『まだ、法学を知らない君へ─未来をひらく13講』東大法学部「現代と法」委員会(有斐閣)
東大の教養学部(1・2年生)を対象とした13人の東大教員による授業の書籍化。高校生にもわかる書き方になっている。
『ヒューマニティーズ 法学』中山竜一(岩波書店)
高校生や大学生にぴったりの法学入門書。
『あぶない法哲学─常識に盾突く思考のレッスン』住吉雅美(講談社現代新書)
マンガに言及した具体例がわかりやすく、法哲学って楽しいと教えてくれる。同じ著者の『ルールはそもそもなんのためにあるのか』(ちくまプリマー新書)はコロナ禍で発生した数々のルールもどきを問う内容。
政治学部志望者におすすめの本
『政治のキホン100』吉田文和(岩波ジュニア新書)
共同通信社政治部記者の著者が各キーワードを2ページで解説。ブックガイドあり。
『正義とは何か─現代政治哲学の6つの視点』神島裕子(中公新書)
ロールズ、マイケル・サンデル、マーサ・ヌスバウムなど現代の政治哲学の潮流がよくわかる。
『リベラル・デモクラシーの現在─「ネオリベラル」と「イリベラル」のはざまで』樋口陽一(岩波新書)
議員の選出ほどには変えられない憲法によって民主主義を守る仕組みの精妙さがわかる。
『近代政治哲学─自然・主権・行政』國分功一郎(ちくま新書)
高崎経済大1年生対象の講義録をまとめた本で、ジャン・ボダン、ホッブス、スピノザ、ロック、ルソー、ヒューム、カントの政治哲学がよくわかる。
『民主主義とは何か』宇野重規(中公新書)
政治学史・社会思想史の東大教授が日本の民主主義の特質や問題点を解説。
『ポピュリズムとは何か─民主主義の敵か、改革の希望か』水島治郎(中公新書)
各国で台頭しているポピュリズム政党・政治家の姿を描き、その本質に迫る本書は、慶應義塾大学文学部の推薦入試の小論文にも登場している。
『若者のための政治マニュアル』山口二郎(講談社現代新書)
政治を知り、社会を変える方法を考える書。
『姜尚中の政治学入門』姜尚中(集英社新書)
政治思想史というヒモノの学問がかえってビビッドなナマモノとしての現代の政治状況を見通すメガネになる。
『自治体をどう変えるのか』佐々木信夫(ちくま新書)
公共性とは何か、民を補完する官の役割とは何かを問う内容で、同著者の『地方は変われるか─ポスト市町村合併─』(ちくま新書)と併せて読みたい。
『これからの地方自治の教科書 改訂版』大森彌、大杉覚(第一法規)
理論や学説の紹介ではなく地方自治体の現場を知るための本。
まとめ
法学部・政治学部では、スケールの大きなテーマを扱うことが多く、言葉ばかり勇み足になりがちだ。
しかし、志望理由書において抽象的な話だけに終始してしまうと、「なぜ自分がこの分野を志望するのか」という説得力に欠けてしまう恐れがある。
だからこそ、大きなテーマを自分の体験や関心と結びつけて論じることが大切だ。
自身で書いた内容を、ここで紹介した合格者の実例やNG例と見比べながら、少しずつブラッシュアップしていこう。
取材・文/伊藤敬太郎 監修/小柴大輔 構成/寺崎彩乃(編集部)
学校パンフでイメージを膨らまそう
この分野の志望理由書では、大きなテーマを自分の体験や関心と結びつけて述べることが求められる。
合格者はどのように表現していたのか、実例を見てみよう。
さらに見落としがちなポイントは、・・・・・・

