【農学部・生物学部・水産学部】合格者の志望理由書を公開!NG例・プロの解説付き
研究内容が多種多様な分野であるため、「自分はどの分野で何の研究をしたいのか」を具体的に述べる必要がある。
合格者は、自身の関心をどのように深め、研究のテーマとしていたのか、実例を見てみよう。
加えて求められるのが、その研究によってどのような社会課題を解決したいのか、という視点だ。
先生の解説から、志望理由書に求められる構成力や工夫を、しっかりと身につけておこう。
目次
合格した先輩の志望理由書①
私立大学 海洋系学部 水産系学科 総合型選抜合格者
志望理由書
※下線をタップすると先生の解説に遷移します
私は貴学○○学部○○学科に入学し、持続可能な方法で水産資源を保全できる人材になり、生態系と文化を後世に残していきたい。
そう考えるようになったきっかけは、サケやサンマなど、多く食されている魚介類の不漁が続いているというニュースを目にしたからだ。主な原因の一つに環境悪化が挙げられており、環境を保全することの重要さを感じた。そのためには持続可能な環境保全の在り方を考え、実行していく必要がある。また、これらの魚介類は我が国で古くから利用されてきたが、その文化が途絶える可能性があることに危機感を抱いた。水産資源の持続的な管理をすることにより、生物多様性が保たれる他に、我が国の食文化や伝統文化を守ることにもつながると考える。
貴学○○学科では、魚介類の構造や生息環境などを専門的に学ぶことができる他、伝統漁法や食文化について学ぶこともできる。海が近いという立地を活かしたフィールドワークや、養殖・飼育施設が充実している。1年次と2年次では調査船での海洋実習をはじめとした実習や実験を通し専門的に学べる他、3年次からはより専門的な研究が可能だ。また、オープンキャンパスに訪問した際、学生の意欲が高いことが伝わった。入学後は、このような学生と切磋琢磨しながら勉学に励み、研究では持続可能な水産資源の在り方を探りたい。卒業後は水産系の企業に就職し、水産資源の保全と我が国の文化を守っていきたい。
先生の解説
ここからは、受験指導のプロ・神﨑史彦先生に、先輩の志望理由書の「良いところ」を解説していただき、「より良くするための視点」をアドバイスしていただこう。
※本解説はスタディサプリ進路の講師が、志望理由書のよい点とその理由を解説したものであり、合否の判断基準を示すものではありません
教えてくれるのは
神﨑史彦先生
株式会社カンザキメソッド代表取締役。スタディサプリ講師。私立学校研究家。
高大接続・教育コンサルタント。21世紀型教育機構リサーチ・フェロー。
大学卒業後、大学受験予備校において小論文講師として活動する一方、通信教育会社や教科書会社にて小論文・志望理由書・自己アピール文の模擬試験作成および評価基準策定を担当。
延べ6万人以上の受験生と向き合うなかで得た経験や知見をもとに、小論文・志望理由・自己アピール・面接の指導法「カンザキメソッド」を開発する。
現在までに刊行した参考書は26冊(改訂版含む)、販売部数は延べ25万冊、指導した学生は10万人以上にのぼる。
GOODポイント
◎「自分はどのような課題を解決したいか」から始まり、「課題を抱いたきっかけ・理由」、「大学(志望校)で可能な学び」、「自分が大学でやりたいこと」…と続き、最後は「将来(大学卒業後)は〜したい」と未来の話で結ぶ…と、きちんとポイントを押さえたうえで全体のストーリーがとてもよくできています。
①◎大学での学びや研究、カリキュラム、施設など、志望学部・学科のことをよく調べ、魅力を感じていることが伝わってきます。
②◎「ニュースを見て危機感を抱いた」で止まらず、「持続可能な水産資源の在り方(とは?)」という問いが立っています。
③◎自分の興味・関心の追究で終わらず、社会課題(水産資源の保全)の解決に努めたいという志や使命感が感じ取れます。
こうしたらBETTERポイント
○「持続可能な水産資源の在り方」というのはやや大きなテーマなので、もう少し絞って具体化し、自分の経験や気づきから深掘りできるとなお良いでしょう。
合格した先輩の志望理由書②
国立大学 農学部 植物系学科 一般選抜合格者
志望理由書
※下線をタップすると先生の解説に遷移します
私は、将来農業試験場の研究員になり、新品種の作物を作って世界の食糧不足の解決に貢献することが夢です。そのため、貴学で普及指導員の資格を獲得し、植物の品種改良に関する知識や技術を身につけたいと考えています。
高校一年生のときに、根粒菌とマメ科植物の共生に興味を持ち、それを応用して栄養価の高い農作物を作ることができるのではないかと考えました。その後、貴学で根圏相互作用の研究をされている教授方を知り、自分の興味が深まりました。
貴学では、品種改良に関わる園芸学や植物育種学を学ぶことができ、農場での研究にも関わることができます。私は、入学後は根圏相互作用、遺伝子組み換え、細胞融合について深く学び、その知識と技術を生かして、新品種の作物を育てることができるようになりたいと考えています。
また、留学を通じて世界の現状を体感し、貴学の研究成果を世界に発信することができたらと思っています。貴学で学び研究することができれば、私が目指す世界的な食糧難の解決につながると信じています。以上の理由から、私は貴学の農学部に進学し、夢を実現させたいと考えています。
こちらも「動物看護師」を目指す人の志望理由書。
神﨑先生はどのような点を評価しているのだろうか。
先生の解説
GOODポイント
①◎自分の興味・関心をもとに「栄養価の高い農作物を作るには?」という問いが立ち、その問いを追究するために大学に行く…という志望理由にはとても説得力があります。
②◎大学で何を学びたいか、その結果、どうなりたいか…までしっかりと書かれています。
③◎大学・学科(志望校)で何を学べるか、どのような研究がされているかについてよく調べていることが伝わってきます。
④◎世界的な社会課題(=食糧難)の解決への強い使命感が感じ取れます。
こうしたらBETTERポイント
○高校時代に「興味・関心をもって調べた・考えた」で止まってしまっているのがやや残念。
探究的なアクション(やってみる)とそれを踏まえた気づきや学びまで盛り込まれていると、なお良くなるでしょう。
合格した先輩の志望理由書③
国立大学 農学部 生物系学科 総合型選抜合格者
志望理由書
※下線をタップすると先生の解説に遷移します
私は将来、アリの研究者になって生態系の保全に貢献したいと考えています。私は自然豊かな山間部で育ち、生態系という様々な生物が絶妙なバランスを保っている姿を間近で見て感動し、生物同士の関係に興味を持ちました。身の回りの昆虫を図鑑で調べるうちに、クロオオアリとクロシジミの共生関係を知りました。「食べる、食べられる」という関係しか知らなかったため、お互いが私のために協力しているように見えるこの共生関係に衝撃を受けました。そして、アリは多くの生物と関わりを持っていることを知り、アリについて研究することで生態系の保全に貢献できるのではないかと考えました。
近年、外来アリの侵入により、在来種が見られなくなった地域もあります。アリは、生態糸の中でも大きな存在であり、侵略性が強い外来アリは、在来種からなる生態糸に対して大きな影響をもたらすと考えられます。そこで貴学の農学部に入り、在来の生態系とアリの基本から、外来アリが生態系与える影響を評価する方法、生態系の管理・保全の方法について学びたいと思っています。
2年次には○○コース、3年次には○○教授の研究室に入ろうと考えています。また、農学部の一学科制は学びたい分野以外の知識を得ることで発想の幅が広がるため、研究者を目指す私にとって多角的な視点を得るきっかけになると考えます。そして○○コースでは、里地里山のフィールドワークで生態系の構成要素や相互作用を学び、それらを通して身に付けた調査・解析方法を生かして○○教授のもとでアリの生態について研究します。同研究室では、外来アリの生態リスクについても過去に研究されていたため、外来アリと在来アリの関係で学べることが多くあると考えています。また、他国での被害状況や対策を現地で学び日本の外来アリ防除に役立てたいと考えているため、国際交流が盛んな貴学の留学プログラムやグローバルカフェを積極的に活用し語学力を高めます。
卒業後は大学院に進学し、外来アリがもたらす在来種の生態系への影響と、効果的で生態系への影響が少ない化学的防除や天敵を用いた生物的防除について研究を深めてまいります。さらに、世界各地に生息する在来種の生態系とアリのより効果的な保全を通して、人と自然が共存できる環境を守ることに貢献できる研究者を目指し研究します。そして、将来は生態系の保全活動に貢献します。
こちらも「動物看護師」を目指す人の志望理由書。
神﨑先生はどのような点を評価しているのだろうか。
先生の解説
GOODポイント
①◎大学で追究したいテーマが明確で、「アリの研究がしたい(アリの研究者になりたい)」という熱意が伝わってきます。
②◎「生態系の保全」という大きなテーマ設定にとどまらず、「効果的で生態系への影響が少ない化学的防除や天敵を用いた生物的防除」と研究内容を具体化できています。
③◎「生物同士の関係」への興味・関心を起点に問いが立ち、それを「生態系の保全」という社会課題の解決につなげられています。
④◎大学・学科(志望校)でどのような学びや研究が行われているかをよく調べていることが伝わってきます。
こうしたらBETTERポイント
○外来アリが生態に与える影響について、研究によってどこまでわかっているか、まだわかっていないことは何か…まで調べ、「だから自分は〜(まだわかっていないこと)の研究がしたい」とすればより良くなるでしょう。
農・生物・水産学部の志望理由書NG例
興味をもったきっかけから大学で学ぼうと決めるまでのストーリーに一貫性がない、経験や実績ばかりが強調され「問い」が立っていない、オリジナリティーが感じられない…といった志望理由書はNG。
具体的にどのようなものがあるのか見てみよう。
「なぜ」が抜けて動機や課題意識が伝わらない例
<やりがちNG例>
農学部に進学したい理由は、持続可能な農業や食の安全に対する関心からです。現代社会では、…
\改善ポイント/
「持続可能な農業や食の安全に対する関心」に興味をもった自分なりの理由やきっかけを盛り込みましょう。
これが抜けていると、誰にでも書けるオリジナリティーのない志望理由書になってしまいます。
具体性に欠けて内容が薄い例
<やりがちNG例>
大学では実験やフィールドワークなどを通して実践的に学び、次世代の農業を支える人材になりたいです。
\改善ポイント/
志望校でできる学びや研究について調べ、「実験やフィールドワーク」をより具体化しましょう。
将来、自分がどのようなかたちで社会に貢献したいのかを深め、「次世代の農業を支える人材」とはどのような人材なのかを言語化しましょう。
農・生物・水産学部の志望理由書のポイント
農・生物・水産学の特徴は、研究内容が多種多様なこと。
同じの学科のなかでも、研究室や研究者によって研究の対象や内容はさまざまだ。
志望理由書では、自分はどの分野でどのような研究をしたいかに加え、その研究を実践するには志望校が最適である理由を、できるだけ具体的に伝える必要がある。
そのため、志望校探しの段階で研究者や研究内容のリサーチが甘いと、説得力のある志望理由書が書けないので要注意。
志望理由書を書く際には、自分の興味・関心を軸に、興味・関心を抱いたきっかけや問いと結びつけながら、大学での研究につなげるストーリーを作っていく。
その際に大切なのが、「何に興味・関心があるか」にとどまらず、「なぜ」や「どのようなところに」をしっかりと盛り込むこと。
そして、「どのような問いが立ったか」、「その問いを大学でどう追究したいか」に結びつけていこう。
農・生物・水産学部の志望理由書の3つのポイントを、神﨑先生に教えてもらった。
「どの分野で何の研究をしたいのか」を具体的に記す
農・生物・水産学部で行われる研究は実に多様であり、志望理由書では、自分がどの分野で何の研究をしたいのかを具体的に表現することが大切です。
例えば、「生態系」「農作物」などでは範囲が広く具体性に欠けるので、「尾瀬のような湿地帯の生態系」、「農作物の中でも日本の主食である米」など、対象を絞り込みましょう。
そのうえで、自分がやりたい研究をするためには志望校(学科)がふさわしい理由につなげていきます。
「自分がやりたい研究」と「志望校(学科)」をスムーズにつなぐためにも、自分がやりたい研究ができる大学・学部・学科はどこか、研究室や先生についてしっかりとリサーチしておくことが大切です。
大学で研究したい「問い」を明確に記す
大学は学問を追究する場であり、問いの視点が不可欠です。
興味・関心事について調べていくと、「すでにわかっていること」が見えてきます。
一方、大学で研究するのは「まだわかっていないこと」です。
わかっていること・わからないことを明確にしたうえで、「なぜ、〜なのか?」「〜するためには?」といった自分なりの「問い」を立てましょう。
この「問い」を深め、アクションを起こし、その結果どのような気づきや学びがあったのか…という探究のプロセスまで盛り込むと、より説得力のある志望理由書になります。
社会課題の解決につながる視点を盛り込む
農・生物・水産学部の志望理由書でありがちなのが、「自分はこれがやりたい!」という熱意は伝わってくるが…という惜しいパターン。
もちろん起点は自分の興味・関心でいいのですが、それを追究した先に何があるのか・どうなりたいのか…という視点が大切です。
「研究によってどのような社会課題を解決したいのか・どのように社会に貢献したいのか」を深掘りし、志望理由書に盛り込みましょう。
農・生物・水産学部の志望者におすすめの本
志望理由書を書くにあたっては、関連する本を読んで理解や考察を深めておくことも重要。
そこで、農・生物・水産学に関連する分野のおすすめ本を神﨑先生に紹介してもらった。
関心を広げ、志望動機を言語化する助けになるものなので、ぜひ読んでおこう。
『沈黙の春』 レイチェル・カーソン(新潮社)
農薬の乱用がもたらす環境破壊の危機を告発し、世界に警鐘を鳴らした環境運動の原点となる名著。
『バッタを倒しにアフリカへ』 前野ウルド浩太郎(光文社)
バッタ研究者が夢を追ってアフリカで奮闘する、笑って学べる昆虫科学エッセイ。
『すばらしい海洋生物の世界』 カラム・ロバーツ(創元社)
多様で神秘的な海洋生物の姿と、海の未来を守るための知恵を描いた一冊。
まとめ
農・生物・水産学部の志望理由書では、自分がどの分野で何の研究をしたいのかを具体的に表現することが不可欠。
その際には「何を(研究したいか)」にとどまらず、「なぜ」「どのように」と深く掘り下げていくことが大切だ。
そのうえで、自分がやりたい研究をするためには志望校(学科)がふさわしい理由につなげていこう。
さらに、「研究によってどのような社会課題を解決したいのか」を深め、大学卒業後のありたい姿まで見据えたストーリーを作っていこう。
取材・文/笹原風花 監修/神﨑史彦 構成/寺崎彩乃(編集部)
学校パンフでイメージを膨らまそう
研究内容が多種多様な分野であるため、「自分はどの分野で何の研究をしたいのか」を具体的に述べる必要がある。
合格者は、自身の関心をどのように深め、研究のテーマとしていたのか、実例を見てみよう。
加えて求められるのが、・・・・・・

