【建築学部】合格者の志望理由書を公開!NG例・プロの解説付き
この分野の志望理由書では、「何に重点を置いて建築を学びたいか」を明確にすることが重要。
合格者はどのように表現していたのか、実例を見てみよう。
さらにライバルに差をつけるためには、「どんな建築士になりたいか」「建築を通してどんな未来をつくりたいのか」まで示すことが求められる。
先生の解説から、志望理由書に求められる視点や構成の考え方を、しっかりと身につけておこう。
目次
合格した先輩の志望理由書
私立大学 創域理工学部 建築学科 学校推薦型選抜合格者
志望理由書
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私は将来地震が起きたとしても決して不安にならないような建物を設計できるような建築士になりたいです。そのために貴学の創域理工学部建築学科を志望します。
地震の多い日本という国に生まれ、大きな地震による被害についてのニュースを沢山見てきました。それらを見る度に、不安や恐怖は大きくなるばかりでした。しかし、いつしかものづくりが好きなことや、几帳面で粘り強い性格といった自分の強みを生かして、建築という立場から、このような不安などを取り除けるようになりたいと思うようになりました。
貴学を志望したのは、創域理工学部で他学科と協働してグループワークを行う創域特別講義が行われる点、そして国際的な視野を持つために交換留学が活発である点に魅力を感じたためです。これらを通して、新たな問題点の発見・解決のために周囲と協力し、横断的に物事を考える力を養っていきたいと思っています。そして、よりレベルの高いものを目指すために国際的な視野を身につけ、コミュニケーション能力を高めたいです。
加えて、私は永野教授の元で地盤と建物の相互関係について学び、地盤構造を含めた耐震についての研究をしたいと思っています。そして卒業後は、一級資格建築士を取得し、防災に関する知識を生かして建築に携わりたいです。
先生の解説
ここからは、志望理由書指導のプロ・小柴大輔先生に、上の志望理由書の「よいところ」を解説していただき、「よりよくするための視点」をアドバイスしていただこう。
◎はVery Good、○はGood、△は修正するとよりよくなるポイントだ。
※本解説はスタディサプリ進路の講師が、志望理由書のよい点とその理由を解説したものであり、合否の判断基準を示すものではありません
教えてくれるのは
小柴大輔先生
Z会東大進学教室や巣鴨にある大学受験塾ワークショップで講師を務めるほか、ロースクール(法科大学院)や司法試験受験の予備校においても一般教養小論文を指導している。
感覚ではなく論理的に答えを導く指導に定評があり、「現代文に対するイメージが変わった」と受験生から圧倒的な支持を集めている。
スタディサプリでは、現代文のほか、小論文や総合型選抜・学校推薦型選抜対策講座を担当。
◎△①大きな展望から書き出すのはVery Good!
志望理由書の書き方で重要なポイントの一つが構成。
この志望理由書のように、「大きな展望」から書き出して、きっかけや背景にある思い、大学で学びたいことへと展開していくストーリーは、非常にアピール力があり、高く評価できる。
「このような建築士になりたいから、貴学のこの学部・学科を志望する」という結論が、最初の2文にまとめられているのは、非常に良いですね。その後、「なぜそのような思いを抱くようになったのか」「そのために大学でどのように何を学びたいのか」について、読み手が導入文から自然に抱く疑問にきちんと答える構成になっています。
この導入部分で惜しい点は、造りたいのがどのような建物なのかについて詳しい説明がないことです。
ひとくちに建築といっても、住宅もあれば、ビルやマンション、スタジアム、橋など種類は多様です。
必要な学びもその種類によって異なってきますから、現時点でイメージしているものがあれば、具体的に書いたほうがいいでしょう。
○②「地震」を切り口にしたストーリー展開がGood!
「建築がやりたい」「建築士になりたい」とだけ記述しても、ほかの受験生と差別化はできない。
そのため、「将来地震が起きたとしても決して不安にならないような建物を設計できるような建築士」という切り口を示せているのは評価できるポイントだ。
冒頭で示した「地震」というキーワードが、そのような思いを抱くようになったきっかけを記述している次のブロック、さらに大学で受けたい授業に関するブロックにもつながっていて、ストーリーに一貫性を与えています。
ただし、「地震」は建築に関心のある人の多くが注目するポイントでもありますから、この切り口だけだと、強く独自性をアピールするまでには至らないかもしれません。
さらに上のレベルを目指すのであれば、例えばですが、環境適合性や住む人の満足感といったプラスαの要素があれば、圧倒的に良くなりますね。
○△③自分の志向や強みと絡めてきっかけを示しているのがGood!
「地震のニュースを見てきた」ことだけにとどまらず、「ものづくりが好きなこと」「几帳面で粘り強い性格」といった自身の志向や強みと絡めてきっかけを記述している点は高く評価できる。
自分の志向や強みも志望理由書でアピールしたいポイントだが、それを学びたいテーマとうまく関連付けて記述するのは、いざ書こうとするとなかなか難しいからだ。
自分の長所は志望理由書に記載したい項目ですし、面接で尋ねられる項目でもあります。
そして、長所は単にそれだけを書いた場合と比べて、このように学部・学科の学びと絡めるとグッとアピール度が高くなります。
なお、きっかけの記述にさらに具体性をもたせるなら、関心を深めた過程で読んだ本や、実際に影響を受けた建築家・建築物に触れるといいでしょう。
◎④大学の特色あるプログラムに触れているのはVery Good!
建築学部・学科のカリキュラムは、どの大学でも共通している部分も多いが、大学ごとに個性ある取り組みも行っている。
「他学科と協働したグループワーク」などはまさにそれに当たる。
この点に言及していると、大学の教育内容についてよく調べていることが伝わり、アピール材料になる。
この志望理由書では、この記述の後に、「新たな問題点の発見・解決のために周囲と協力し、横断的に物事を考える力を養っていきたい」と、そのプログラムを通してどんな力を養っていきたいかまでが書かれています。
このような書き方は非常にいいですね。
交換留学に関しても、どの国に行ってどのような学びを得たいかまで書くと、なお良くなります。
△⑤「コミュニケーション能力」はさらに深掘りが必要な言葉
「コミュニケーション能力」は、志望理由書で多用される言葉だが、非常に曖昧な表現でもある。
特に高校生世代は「明るく元気で誰とでも仲良くやれる」ことを指して「コミュ力が高い」と言いがちだが、この志望理由書で書かれている「コミュニケーション能力」はそれとは違うはず。
では、どのような「コミュニケーション能力」なのか、その説明が必要だ。
なお、この前に出てくる「国際的な視野」も同じように頻出しがちな言葉。
なぜ国際的な視野が必要なのか、それが建築にどう活かせるのかを記述できるとさらに良くなる。
建築学科の志望理由書ですから、建築という分野で必要とされるコミュニケーション能力とはどのようなものなのかを意識して考えると良いですね。
例えば、「建築の専門家ではない顧客に対して、わかりやすく建築物の構造など専門的な内容を伝えることができる力」「施工担当者に設計の意図を正しく伝える力」など掘り下げた記述が追加されると、言いたいことがより伝わるはずです。
◎⑥教授名を挙げて学びたいことを書いているのはVery Good!
具体的な教授名と学びたい内容について記述しているのは、カリキュラムについてよく調べていることが伝わるのでGood。
裏返せば、ここで具体的な教授名や授業内容を書けるくらい、カリキュラムやシラバスをしっかり読み込んでおくことが大切ということだ。
△⑦資格取得についてはあえて書かなくてもいい
一級建築士の取得は建築学科であれば当たり前の目標なのであえて書かなくてもいいかもしれない。
それよりその後のどんな建築士になりたいかの記述を詳しく書きたい。
建築学部の志望理由書NG例
「志望理由書のポイント」でも説明しているが、建築学部・学科は、工学系の大学・学部に設置されている場合もあれば、美術系の大学・学部に設置されている場合もあり、それぞれに強みがある。
そのほか、総合大学に設置された建築学部は、両方の強みをバランス良く備えていることも。
これらの大学ごとの特色を踏まえずに志望理由書を書いてしまうと、自分の目標や学びたいことと、大学の強みがずれてしまう場合がある。
また、建築学部・学科は、学ぶ内容が非常に幅広い。
それだけに、特に関心があるポイントを絞らないと、「あれもこれも学びたい」というまとまりのない志望理由書になってしまう危険性があるので注意しよう。
いくつか具体的なNG例を紹介しておこう。
大学の特色と自分の目標がずれるのはNG!
<やりがちNG例>
貴学工学部建築学科では、建築の美的表現としての側面に着目し、建築デザインについて深く学びたいと思います。
\改善ポイント/
上記の例は、絶対にNGというわけではありません。
工学部建築学科でも建築デザインについては学べますし、良い先生がいることもあるでしょうから。
しかし、デザインを学びたいのに、あまり考えないで工学部の建築学科を選んでいた場合、「この大学で学びたい理由」の説得力は落ちてしまいます。
面接で、「デザインが学びたいなら、美術大学のほうがいいのでは?」という質問が出てくることは当然想定されますから、それに対する回答が用意できていないなら、上の例はNGになります。
「とにかく建築について幅広く学びたい」はNG!
<やりがちNG例>
建築学は、文理・芸術などの分野を超えた学問であり、その点に魅力を感じました。
貴学では、これらの幅広い知識を身につけたいと考えています。
\改善ポイント/
「とにかく幅広く学びたい」では、建築のどの部分に興味があるのかがわかりません。
また、志望理由書のストーリーの軸としても、もう一段掘り下げて「建築のこの部分を深く学びたい」と明確に示したほうが、筋が通りやすくなります。
決して幅広く学ぶことがNGなわけではありませんが、さらにそのなかでも軸となるポイントを決めたほうが、より伝わる志望理由書になります。
「資格を取得したい」で終わってしまうのはNG!
<やりがちNG例>
一級建築士を取得することが私の目標です。
そのために貴学の建築学科を志望しました。
\改善ポイント/
建築学部・学科志望者なら、一級建築士の資格取得を目指している人は相当多いはず。
そのため、「一級建築士の資格を取得したい」ということを志望理由書に書いてもアピール材料にも差別化の材料にもなりませんし、それが目標であるように書くのはむしろNGです。
「建築士になってどのような建築物を造りたいか」までは考えていないのかなという印象を与えてしまうかもしれません。
建築学部・学科の志望理由書のポイント
では、改めて建築学部・学科の志望理由書を書く際のポイントをまとめておこう。
「どんな建築士になりたいか」を書こう
大学で学ぶ目的は、単に資格を取得することではなく、その先、社会に出てどのように建築にかかわっていくかということにある。
志望理由書で問われているのはその先の目標だ。
よく調べたうえで、建築士としての就職先を具体的にイメージし、「どんな建築物を手掛けたいか」「どのような建築士になりたいか」を目標に設定しましょう。
「何に重点を置いて建築を学びたいか」を書こう
建築学は、製図・設計、構造、材料、施工、デザイン、空間表現、室内環境、照明、建築法規、建築史など、文理にまたがる幅広い領域を学ぶ学問。
建築士となるには、これらすべての知識・スキルを身につけることが求められるが、そのなかでもどの領域に重点を置いて自分の専門性を磨いていくかは重要なポイントだ。
建築学は、工学系の大学・学部でも、美術系の大学・学部でも学ぶことができ、どちらでも上記のすべてを学ぶことができるが、それぞれの強みには違いがある。
「地震に強い建物を造りたい」なら構造や材料、工法などの教育に強みがある工学系を選ぶ、「建物のデザインに興味がある」なら、デザインや色彩などについて深く学べる美術系を選ぶといった選択が考えられるだろう。
つまり、「何に重点を置いて建築を学びたいか」は大学・学部選択にもかかわってくるということ。
また、前述のポイントとして挙げた「どんな建築士になりたいか」を具体的に示すためにも、しっかり考えておく必要がある。
「何に重点を置いて建築を学びたいか」を明確にすることで、志望理由書のストーリーもグッと組み立てやすくなります。
上の合格者の志望理由書がその好例です。
「地震に強い建物を造りたい」という重点ポイントがはっきり示されており、それを軸にきっかけから学びたいこと、将来の目標まで一貫したストーリーが構成されています。
好きで建築物を見た経験もアピール材料になる
建築の分野を志望する人の場合、歴史的建造物であったり、住宅であったり、先進的なビルであったり、何かしら自分の好きな建物があるのではないだろうか。
そのような建築物を見て回ったりした経験があれば、ぜひ志望理由書に書こう。
「単なる趣味でやっていたことだから…」と、遠慮して書かない人もいるかもしれないが、それはもったいない。
私の教え子で、以前、「住宅展示場を回るのが趣味」という建築学科志望の生徒がいたのですが、ぜひそれを志望理由書に書くようにと勧めたことがあります。
高校生が住宅展示場を見て回るというのは非常にユニークで、それだけ好きなんだということが伝わるエピソード。
まさに自分だけのアピール材料になる要素ですから、オリジナリティーのある志望理由書になるはずです
建築学部志望者におすすめの本
志望理由書を書くにあたっては、関連する本を読んで理解や考察を深めておくことも重要。
そこで、建築学に関連する分野のおすすめ本を小柴先生に紹介してもらった。
関心を広げ、志望動機を言語化する助けになるものなので、ぜひ読んでおこう。
『天下無双の建築学入門』藤森照信(ちくま新書)
赤瀬川原平氏や南伸坊氏らとの路上観察学会で有名な筆者が、軽妙な語り口で楽しみながら建築の本質を語る。
『建築史的モンダイ』藤森照信(ちくま新書)
日本の木造建築、キリスト教の最古の教会建築などを題材とした建築史にまつわるエッセイ集。
『自然な建築』隈研吾(岩波新書)
筆者は、東大建築学科教授であり、新国立競技場の設計者として知られる。
20世紀を席巻した無機質無個性なコンクリート建築に対するアンチテーゼ。
『日本の建築』隈研吾(岩波新書)
日本の近代建築史の総括。
日本の近代建築に影響を与え、また影響を受けた外国人建築家、伝統と近代を接続した日本人建築家を論じる。
『現代建築に関する16章─空間、時間、そして世界』五十嵐太郎(講談社現代新書)
巨大資本主義と建築との関係など、斬新な視点から現代の建築を分析する。
まとめ
志望理由書を書くうえでの出発点は、「どんな建築士になりたいか」を明確にすることだ。
建築学を学ぶ目的は資格取得ではなく、将来どのように社会と関わっていくかにある。
だからこそ、自分が目指す姿や学びの重点を具体的に示す必要があるのだ。
志望理由書は、自分の将来と真剣に向き合うきっかけでもある。
この機会に、建築を通じてどんな未来をつくりたいのかをぜひ考えてみてほしい。
取材・文/伊藤敬太郎 監修/小柴大輔 構成/寺崎彩乃(編集部)
学校パンフでイメージを膨らまそう
この分野の志望理由書では、「何に重点を置いて建築を学びたいか」を明確にすることが重要。
合格者はどのように表現していたのか、実例を見てみよう。
さらにライバルに差をつけるためには、・・・・・・

