生命の謎を解き明かす。

とてもしたたかで、動的な生物、
植物の魅力に迫る

バイオサイエンス学科 伊藤 紘子 准教授

「植物栄養学」

植物たちのしたたかな生存戦略
植物はその場から動くことができない生物です。種が落ちたところで生きていかざるを得ません。与えられた環境に耐えられた植物だけが生き残ることができるのです。そのため、動物に比べて、さまざまな環境ストレスに耐性を持つように進化していきました。砂漠のような極端に水が少ない場所、塩分濃度が濃い海岸線、強い酸性を呈す土壌でも生きていくことができる植物もあり、これらの植物はさまざまなメカニズムを駆使して、過酷な環境で生き抜いていきます。例えば高校の生物の授業でも学習するように、マメ科の植物は栄養分の少ない土地でも生育するために、大気中の7割以上を占める窒素を使ってタンパク質を合成しています。その仕事をしているのは自分の根に共生させている微生物・根粒菌です。そんな大切な役割を担う根粒菌ですが、感染数が増えすぎると「共生」が「寄生」になってしまうため、植物は自分に都合の良いように共生する根粒菌の量を自在にコントロールするメカニズムを持っています。他にも植物は、食害する虫や病原菌を避けるための防御物質や、他の植物の生育を邪魔する物質を放出したりします。逆に、生育促進効果のある微生物などの「使える生物」は誘因物質で引き寄せて利用します。植物はその場で静かに生きていると思われがちですが、実はとてもしたたかで、動的な機能を持っているのです。
生命が成し遂げている精緻な仕組みに感動
植物はもちろん、生物のことを研究すればするほど、生命が成し遂げている仕組みの精緻さに驚き、感動することの連続です。この喜びを味わえるのは、生物を研究する者の特権かもしれません。生物はなぜこのように複雑な機構を作り上げることができたのでしょうか。その深遠に触れるたびに、生命の起源はどこにあるのかということに思いを馳せる毎日です。
私たちの研究は、食の確保、環境の保全、人の健康増進にも応用されていくものです。マメ科植物の共生窒素固定の利用、生育促進効果のある微生物の利用は、肥料を減らすことにつながり、結果として大気中の二酸化炭素を減らすことにつながります。また、植物が作る物質は医薬品、農薬としても使われます。身近なところで「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」などに含まれる物質は、植物が自分の身を守るために作った物質を人が借りているとも言えます。植物のまだ解明されていない仕組みが、人間の健康寿命を延ばすことにつながるかもしれません。
みなさんが持つ植物のイメージは変わりましたか? 魅力溢れる植物の謎を解き明かし、人の役に立てること。それが私の研究のテーマです。

生命の謎を解き明かす
研究ができるのは

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