まだ世の中にない治療薬を創り出す。

光スイッチでコントロールする
抗生物質を作り出す微生物工場

バイオサイエンス学科 高野 英晃 教授

「医療微生物・放線菌の研究」

抗生物質などを作り出す微生物工場
放線菌は、カビのように菌糸と胞子で成長していく細菌(バクテリア)の一種です。最も有名なのはストレプトミセスグリセウス。結核の特効薬として知られている抗生物質「ストレプトマイシン」を作る放線菌です。これまでに発見された、抗生物質のような微生物代謝物質のうち、約6割は放線菌が作り出しています。いわば、放線菌は優れた微生物工場なのです。放線菌が微生物工場として優れているのは、非常に安定しているので、大量培養に向いているからです。放線菌が作り出すさまざまな有用物質は抗生物質や抗がん剤を始めとした医薬品のほかにも、動物薬、農薬、酵素阻害剤などとして、広く使われています。
#光スイッチ #人工遺伝子
私の研究の中心は、放線菌が抗生物質のような有用物質を生産するタイミングを光によって制御する「光スイッチ」の研究と、人工遺伝子を利用した新たな有用物質の生産です。
「光スイッチ」は光遺伝学(オプトジェネティック)の分野の一つです。光遺伝学は2005年に脳の神経細胞の働きを光でコントロールする画期的な技術として、アメリカで研究が始まりました。今では神経細胞だけでなく、動物、植物、微生物など、すべての生物を対象とする分野に広がっています。私が放線菌の働きを光で制御できるかもしれないと気づいたのは、学生時代に実験室に放置していた放線菌が、黄色く変色したことがきっかけでした。現在は微生物の働きをコントロールするために化学物質が使われていますが、コストはもちろん、環境にも負荷がかかります。光で微生物機能のオン、オフが制御できれば、化学物質を使わない低コストで環境にやさしい大量生産の道につながります。
もう一つが、放線菌のDNAを編集して新たな有用物質の生産をめざす研究です。これは放線菌の微生物工場としてのポテンシャルを利用しようという試みです。遺伝子(ゲノム)の研究が進み、今では自然界の多くの生き物のゲノム情報が解読されています。このゲノム情報から合成した「人工遺伝子」を放線菌に入れることで、これまでにない有用物質を生産させることができるようになります。どのような遺伝子を組み込むか、どうすれば効率良く生産させることができるのか。光スイッチの制御と合わせて、有用物質を安価に大量に作ることができれば、医療や農業生産、食糧生産などの分野に大きな変革をもたらすことができると思います。

医薬品開発の
研究ができるのは

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