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積年の課題解消へ──
法科大学院の未修者教育が変わる!

片山直也
法科大学院協会理事長インタビュー

2021年2月の文部科学省中央教育審議会大学分科会・法科大学院等特別委員会で、それまでの一年間にわたる議論をまとめた「法学未修者教育の充実について」という報告書が公表された。今回明らかにされた対応策は以下の5つ。

  1. 学修者本位の教育の実現
  2. 社会人学生等の実態に配慮した学修体制
  3. 効果的・効率的な学修に向けた法科大学院間の協働
  4. 共通到達度確認試験を活用した学修の充実・改善
  5. 法科大学院修了生のキャリアパスの多様化

そのポイントはどこにあるのか。専門委員の一人である片山直也氏(法科大学院協会理事長)に話を聞いた。

(取材日:令和3年3月18日)

未修者教育の活性化は目下の最重要課題

写真:片山直也氏
片山直也氏
法科大学院協会理事長、慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)教授。1961年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科民事法学専攻博士課程単位取得退学。慶應義塾大学法学部専任講師、同助教授、同教授を経て現職。2011年~2017年の6年間、法務研究科の研究科長を務める。

今回、委員会で未修者教育が改めて議題となった経緯について教えてください。

2004年に発足したロースクール制度は、多様な法曹を養成するため、広く社会人や他学部・他研究科出身の方々を法曹界に取り入れていくことをめざしていました。

当初は入学定員の7割が法学部出身者、3割が未修者というかたちで始まり、特に1期生、2期生は非常に優秀な社会人に大勢来ていただくことができました。しかし、その後、ロースクール制度を運用するなかで、私たちが法曹の魅力を十分伝えきれなかったこと、新司法試験の合格率が制度発足前に想定されていた数字より大幅に低かったこと、同時期に弁護士の就職難に関するネガティブな報道が目立ったことなど、いくつかの要因があって法科大学院の志願者自体が減ってきました。

さらに、2011年には司法試験予備試験が始まり、法科大学院を経ない迂回経路ができたこともあって、ロースクール制度自体がうまく機能しなくなってきました。

そこで、2019年の法曹養成制度改革の課題となったのは大きく2つです。1つは、法曹をめざして法学部に進学した人のニーズにしっかりと応えること。具体的には法曹コースを創設して、学部教育と法科大学院教育を一体化し、修了までの期間の短縮を図りました。

もう1つの課題は未修者教育の活性化でした。要するに、今までは一元的な受け皿のなかで法学部卒者も社会人・他学部出身者も受け入れてきましたが、法曹コースと未修者コースを分けた二元的な制度に移行していこうということです。

この2019年の改革の方向性のなかで、法曹コースの整備は進んできたので、残されていた課題として、必然的に未修者教育の活性化に関する議論が始まりました。

アクティブラーニングを導入し、個別の理解を促進

現実には、法律の学修経験がない社会人などは法科大学院の教育になかなかついていけないなど難しい問題があります。未修者教育の活性化を図るあたり、特に課題とされたのはどのようなことですか。

法律基本科目の教育については、法学部の学生は3~4年かけて、ゼミなどで議論を重ねて力をつけていきます。未修者は法科大学院に入学した1年間でそこまでマスターしなければいけません。特に1年次の春学期は何をどう勉強したらいいのかが必ずしも十分につかめないまま大量の情報を処理していくことになります。そのため、春を終えた段階で何も身についていないという問題が起きていました。

そこで、「学修者本位」という観点から根本的に教育手法を見直していこうという議論になりました。具体的には、アクティブラーニングの手法を取り入れ、学修者を主体として、何をどう学んでいくかということを自ら考えさせながら指導していく方法を検討しています。

従来は、法律基本科目の教育は一律に講義形式で教えるのが一般的でしたが、そこを改善していこうということですね。

法科大学院は、未修2年次、既修1年次からは、基礎的な法律知識を前提としたソクラテスメソッドで進めていますが、未修1年次の法律基本科目に関しては、多くの法科大学院が講義形式で教えていました。その点を改善し、「予習→アクティブラーニングによる授業→復習」というサイクルで、個々の状況に応じた指導を実現していこうということです。

今回、オンデマンド方式やICTの活用を積極的に図っていくことも検討されています。

オンデマンドの活用は主に予習の部分ですね。オンデマンド教材であれば、個々の学修の進捗状況に合わせて活用しやすいですから。アクティブラーニングの授業に関してはもちろん教員が対面で進めます。それと同時に重要になるのが復習です。復習に関しては、法科大学院修了生が補助教員として個別指導に当たります。

多様な専門性・キャリアを持った人たちに法曹をめざしてほしい

法科大学院全体で効果的な未修者教育の方法を検討していく場なども設けられるのでしょうか。

法科大学院協会では、若手弁護士が結成する法曹養成ネットワークと連携しながら、未修者教育の情報共有を図るプラットフォームを形成していきたいと考えています。今までは、各法科大学院で未修者教育に関する工夫をそれぞれにしていても、共有する場がなかったのです。

そこで、協会は、法曹養成ネットワークのサポートを得ながら、オンデマンドも活用したアクティブラーニングの授業方法に関して研究会を設けます。当面は憲法・民法・刑法の授業に関して、各法科大学院から取り組み事例を持ち寄り、情報を共有して、ガイドラインにまとめていこうと考えています。なお、条文の読み方、判例の読み方、民事法の紛争解決の基本的考え方など、入学前にできる導入教育に関しては共通教材を開発することも検討しています。

また、法曹養成ネットワークは補助教員間の情報共有の場でもあります。これまでは、大規模校であれば補助教員の人数も多いので、ある程度個別指導の方法などに関する情報共有ができましたが、中小規模の法科大学院ではその機会が十分ではありませんでした。法曹養成ネットワークが機能すれば、その問題は解消できると考えています。

次世代の法科大学院教育を支える補助教員の皆さんはそれこそ手弁当でサポートしてくれている人も多い。非常にありがたいことですね。

一連の未修者教育の活性化に取り組むことで、他学部出身者・社会人の参入を増やしていきたいということですね。

それは法曹界全体が強く希望していることです。医療の専門家をはじめ、理系の技術・専門知識を学んできた方、あるいはグローバルなキャリアを重ねてきた社会人、心理カウンセリングの専門性をお持ちの方など、多様なバックグラウンドを持った法曹が強く求められている状況は、ロースクール制度発足当初から変わっていません。

しかし、私たちのアピール不足や制度上の問題があって、そういったスペシャリティーのある方が法曹になる道が結局は狭き門であるというイメージが広がってしまっていました。

なおかつ、多くの法科大学院では既修者コースと未修者コースの併願が可能なため、現状は未修者コースの半分以上が法学部出身者になっています。個人的には、未修は他学部出身者・社会人に限定してしまってもいいのではないかと考えているくらいです。

とにかく、多様なスペシャリティーをもった人たちに法曹をめざしてほしいですね。そのため、法科大学院側は改めて広く門戸を開くと同時に、未修者教育の制度改革、環境整備に積極的に取り組んでいきます。そして法科大学院協会では、そうした各校の意見や取り組みを集約したり、あるいは相互協力を促進する枠組みを設けたりするなどの役割を果たしていきたいと思っています。

写真:電子ブック『法科大学院入試ガイド』

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