法科大学院入試ガイド2024年度版
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そう考えると、5年5回のチャンスがあっても合格できない層は、実際には少数派であることが理解できるだろう。しかし、それでも「この未修と既修の合格率の差は気になる」という人もいるはずだ。やはり合格の可能性を高めるには既修者コースに進むべき? 「未修者コースの学生も2年目からは既修者コース入学組と合流するわけですから、教育内容に違いはありません。未修か既修かという問題よりも、むしろ大きいのは勉強期間。既修に進む人は入学前に予備校などですでに2年以上法律を学んでいることが多い。合格から入学までの期間、法科大学院での2年間、修了後の司法試験までの期間を合わせればトータルで5年程度学んでいることになります。それに対して、入学前に法律を勉強していない純粋未修者は修了後1回目の試験までの勉強期間は3年強ですから、当然合格率に差は出ます。在学中に司法試験を受験する場合はさらに準備期間が1年短くなる。未修で入学する人は合格から入学までの期間の勉強が重要です」(伊藤塾/塚本さん)つまり、重要なのは司法試験までのトータルの勉強期間をどう設計するかということにある。では、未修の合格率が全体的に既修よりも低いのは、トータルの勉強期間が理由だとしても、法科大学院ごとに既修・未修の合格率の差に違いがあることはどう解釈すればいいのだろう。司法試験合格率上位校同士を例に比較をしてみよう。京都大学は既修の司法試験合格率が度も差がある。一方、慶應義塾大学は既修が63・57%、未修がト程度だ。未修で合格者数5人以上、合格率30%以上を達成しているのは、前述の慶應義塾大学のほか、東京大学、一橋大学、早稲田大学、九州大学、筑波大学となっている。実はここが未修者コース志望者にとっては重要なポイント。純粋未修者、あるいは多少法律を学んではいても、まだ本格的な法律学習に十分なじんでいない層は、入学後、勉強の仕方がわからずに、スタートからつまずいてしまうことが多い。これが尾を引くと、進級ができない、ついていけないという事態になってしまうのだ。未修の合格率がいい法科大学院は、このような未修者特有の問題を解決するため、未修者に対する教育・サポート体制をきちんと敷いていると推測できる(法律学習に慣れた学生が多い可能性も考慮する必要があるが)。このように各種の数字を細かく分析していくと、それぞれの法科大学院の特色も見えてくる。もちろん数字だけで判断するのは危険なので、数字から見えてきた傾向を糸口に、教育体制を掘り下げて調べることが大切だ。また、未修者の進級や司法試験合格率に関する問題は多くの法科大学院が課題ととらえており、教育体制の改革を進めている。そのため、各法科大学院の既修・未修の合格率の差は今後改善されていく可能性も十分あることを頭に入れておこう。ここで全体の合格率の上昇傾向についても確認しておこう。2014年には22・6%にまで低下した合格率は、2017年から上昇に転じ、2022年には前述のように45・5%となった。法科大学院制度スタート後の新司法試験受験者数のピークは2011年の8765人。しかし、その後は減少を続け、2022年は3082人。ピーク時との比較では35%ほどになっている。一方、合格者数はどうか。ピークは2012年の2102人で、2022年は1403人だから、半減とまではいっていない。つまり、ライバルの減少が近年の司法試験合格率上昇につながっているということができる。受験者数減少の要因は、法科大学院の募集停止、司法試験合格率の低迷などのネガティブな情報が報道され続けたことが影響したもの。しかし、すでに募集停止の動きも落ち着いてきたし、5年5回の受験も可能になるなど司法試験制度も安定してきた。また、弁護士の就職状況は、今、決して厳しいわけではなく、一般企業の法務部などが弁護士や法科大学院修了生を採用する動きも広がっている。状況を冷静に見渡せば、法曹志望者にとってチャンスが広がっているのだ。 「決して司法試験の内容が簡単になったわけではありませんが、試験制度や就職状況が安定してき 「直近の法科大学院入試の動向 「司法試験の在学中受験が行わたことによって、『今年はどうなるんだろう』という不安感なくチャレンジできるようになってきたのは確かですね」(LEC/永野先生)なお、2022年度から法曹コースの学生の法科大学院進学が始まった。また、2023年の司法試験から、所定の単位を修得済みで、1年以内の修了が見込める法科大学院生は、在学中であっても司法試験を受験できることになった。これが今後の既修の法科大学院入試の合格率、その後の司法試験合格率にどう影響するかは注視する必要があるだろう。を見ていると、明らかに法曹コースからの受験生が優先されています。特に早稲田大学法科大学院は一昨年、開放型7人合格だったのを昨年、50人にしました。国立私立を問わず学部成績が優秀な人を合格させて入学させる方向にシフトしています。奨学金も法曹コースからの合格者に優先的に出ている傾向にあります」(塚本さん)つまり、法曹コースではない既修受験者はその分枠を減らされることになり、法科大学院進学のハードルは高くなることになる。一方、在学中の受験が可能になることについては、塚本さんは次のようにアドバイスする。れることになり、法科大学院はさらに過密スケジュールになります。今まで以上に法科大学院の既修の合格率が高いのは勉強期間が長いからデータを糸口にして教育体制をリサーチ既修の司法試験合格率は下がる可能性が高いライバルの減少で司法試験合格率は上昇!2022年はついに45%超え36・59%と両者の差は27ポイン16・28%と両者は70ポイント程84・85%なのに対して、未修は                 ●【表1】2022年司法試験の 大学院別合格率(受験者数比)上位10校●【表2】2022年司法試験の  大学院別合格者数上位10校京都大学法科大学院東京大学法科大学院一橋大学法科大学院慶應義塾大学法科大学院東北大東北大学法科大学院法科大学院愛知大学法科大学院神戸大学法科大学院大阪大学法科大学院早稲田大学法科大学院京都大学法科大学院東京大学法科大学院早稲田大学法科大学院慶應義塾大学法科大学院一橋大一橋大学法科大学院法科大学院神戸大学法科大学院大阪大学法科大学院中央大学法科大学院東北大学法科大学院創価大学法科大学院同志社大学法科大学院37.50%25人出所:法務省発表のデータより作成 ※募集停止校は除く68.00%60.94%60.00%57.46%56.25%50.00%48.65%45.95%44.83%119人117人104人104人66人54人51人50人27人出所:法務省発表のデータより作成 ※募集停止校は除く

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