ここまではカリキュラムや学生層、実務能力の養成力など、法科大学院選びの際につい軽視されがちなポイントを中心に解説してきた。とはいえ、当然ながら、各法科大学院の司法試験合格率も受験生にとっては気になる項目だろう。しかし、シンプルに「合格率ランキング上位だから、誰にとってもいい法科大学院」と言い切れないのはこれまで説明してきた通りだ。賢い受験校選びのためには、もう一歩踏み込んだ視点が必要になる。ひとまず2023年の司法試験合格率ランキング(表1)を見てみよう。トップは京都大学の68・36%。以下、一橋大学、慶應義塾大学、東京大学と、合格率ランキング上位常連校が4位までを占めている。合格率が50%を超えているのはこの4校のみだ。予備試験組の合格率は昨年より4・9ポイント減少の92・63%(合格者数327人)だった。一般的に、この合格率ランキングが注目されることが多いが、表2に示した合格者数もあわせてチェックすることが大切だ。というのも大規模校と小規模校では、受験者数の母数に大きな開きがあるからだ。 「特に小規模校の合格率は1人の合格・不合格で大きく変わりますから、単年の数字だけでは安易に評価できません。数年分の平均を調べることが大切です」(辰已法律研究所/原先生)なお、合格者数に関していうと、2023年は在学中受験(後述)が始まり全体の合格者数が増えたなかで、特に司法試験合格率上位校の大幅躍進が目立った。慶應義塾大学は前年から82人増、早稲田大学は70人増、京都大学、東京大学はいずれも69人増だ。合格率に話を戻すと、単年の他大学との比較だけでなく、同一の法科大学院の経年変化をチェックすることも大切。毎年少しずつでも司法試験合格率が高まってきている場合、教育内容の変化などを調べてみることにも意味がある。ところで、合格率ランキングトップ10に入っている法科大学院でも7位以下は40%台。全受験者を合わせた合格率(表3)も以前と比べて上がってきたとはいえ45・3%。「苦労して法科大学院で学んでも、司法試験に合格できない可能性のほうが高いのか……」と不安を覚える人は決して少なくないはず。そこで注目してもらいたいのが図1の累積合格率だ。修了後3年目までの累積合格率を見ると、未修・既修を合わせた合格率は7割近くに達する。既修に限れば、修了後2年目まで累積合格率は70・9%となっている。かつ、この数字は、「1年目の試験で不合格だったら、司法試験はあきらめて就職する」という選択をしている人がいることも加味して分析する必要がある。最新の大学院別合格率は合格者数とあわせて分析修了後3年目までの既修累積合格率は約7割累積合格率にも注目!法科大学院修了生全体の司法試験累積合格率は3年目までで7割近くに達する合格率の賢い読み解き方2023年の司法試験合格率は45・3%。ランキング上位校でも合格率は5〜6割台。この数字を見て法科大学院進学にためらいを感じる人もなかにはいるかもしれない。しかし、多角的にデータを読み解けば、法科大学院進学への期待感は大きく変わってくる!63.155.541.432.070.975.663.244.279.673.068.254.749.182.972.9※ 募集停止・廃止校を除く34校を対象として、2023年司法試験までのデータを用いて算出している。※ 司法試験累積合格率は、法科大学院修了者数のうちの司法試験実受験者数を用いて算出している。出所/文部科学省 中央教育審議会 法科大学院等特別委員会(第112回) 配布資料(2023年9月)を参考に作成●【図1】直近の修了年度別司法試験累積合格率合格率■■ 法学未修者コース(3年コース) ■■ 法学既修者コース(2年コース) ■■ 全体90.0%80.0%70.0%60.0%50.0%40.0%30.0%20.0%10.0%修了年度2021年度修了者(1年目)(修了後年数)2020年度修了者2019年度修了者(2年目)(3年目)2018年度修了者2017年度修了者(4年目)(5年目)
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