法科大学院入試ガイド2025年度版
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そう考えると、5年5回のチャンスがあっても合格できない層は、実際には少数派であることが理解できるだろう。しかし、それでも「この未修と既修の合格率の差は気になる」という人もいるはずだ。やはり合格の可能性を高めるには既修者コースに進むべき?しかし、そもそも未修者コース入学組であっても、2年目以降は既修者コース入学組と合流し、同じ授業を受けることになる。未修2年目以降と既修の教育内容に差があるわけではないのだ。では、なぜ合格率の差が出てくるのかというと、専門家の多くが指摘するのが、トータルの勉強期間。 既修者コース入学組は、既修者試験対策として本気で勉強した期間が2年程度あるとすると、法科大学院在学の2年と合わせて勉強期間はおよそ4年。それに対して純粋未修で入学した人はトータルの勉強期間は在学期間の3年のみ。この差が大きいのだ。つまり、重要なのは司法試験までのトータルの勉強期間をどう設計するかということにある。では、未修の合格率が全体的に既修よりも低いのは、トータルの勉強期間が理由だとしても、法科大学院ごとに既修・未修の合格率の差に違いがあることはどう解釈すればいいのだろう。司法試験合格率上位校を例に比較してみよう。神戸大学は既修の合格率が55・74%なのに対して、未修は12・50%とその差は43ポイント以上。一方、早稲田大学は既修49・68%に対して未修は25・93%。その差は23ポイント程度と格差は小さい。実はここが未修者コース志望者にとっては重要なポイント。 純粋未修者、あるいは多少法律を学んではいても、まだ本格的な法律学習に十分なじんでいない層は、入学後、勉強の仕方がわからずに、スタートからつまずいてしまうことが多い。これが尾を引くと、進級ができないという事態になってしまうのだ。 未修の合格率がいい法科大学院は、このような未修者特有の問題を解決するため、未修者に対する教育・サポート体制をきちんと敷いていると推測できる(法律学習に慣れた学生が多い可能性も考慮する必要があるが)。このように各種の数字を細かく分析していくと、それぞれの法科大学院の特色が見えてくる。もちろん数字だけで判断するのは危険なので、数字から見えてきた傾向を糸口に、教育体制を掘り下げて調べることが大切だ。また、未修者の進級や司法試験合格率に関する問題は多くの法科大学院が課題ととらえており、教育体制の改革を進めている。そのため、各法科大学院の既修・未修の合格率の差は今後改善されていく可能性が十分あることを頭に入れておこう。実際、未修者の合格率は上昇傾向にある。例えば、京都大学は前年の未修者合格率が16・28%だったが、2023年は34・格率との差はまだまだ大きいものの格差は改善傾向にある。ここで全体の合格率の上昇傾向についても確認しておこう。2014年には22・6%にまで低下した合格率は、2017年から上昇に転じ、2022年には法科大学院制度スタート後の新司法試験受験者数のピークは2011年の8765人。その後は減少を続けたが、2023年は大幅増加に転じ、3928人。それでもピーク時との比較では一方、合格者数はどうか。ピークは2012年の2102人で、しばらく減少が続いたが2023年はこちらも増加に転じて1781人。ピーク時との比較では、約15%減となった。 つまり、合格者数はそこまで減っていないなかで、受験者数はピーク時から大きく減っていることが、近年の合格率上昇につながっているということができる。受験者数減少の要因は、法科大学院の募集停止、司法試験合格率の低迷などのネガティブな情報が報道され続けたことが影響したもの。しかし、すでに募集停止の動きも落ち着いてきたし、5年5回の受験も可能になるなど司法試験制度も安定してきた。また、弁護士の就職状況は、今、決して厳しいわけではなく、 一般企業の法務部などが弁護士や法科大学院修了生を採用する動きも広がっている。「決して司法試験の内容が簡単になったわけではありませんが、試験制度や就職状況が安定してきたことで、『今年はどうなるんだろう』という不安感なくチャレンジできるようになったのは確かですね」(LEC田中先生)。なお、2022年度から法曹コースの学生の法科大学院進学が始まった。また、2023年の司法試験から、所定の単位を修得済みで、1年以内の修了が見込める法科大学院生は、在学中であっても司法試験を受験できることになった。なお、2023年の在学中受験者数は1114人で全体の4分の1を占めた。そのうち合格者数は637人で、在学中受験者のみの合格率は59・5%だった。直近の法科大学院入試(既修者)の動向を見るだけでも、明らかに法曹コースからの受験生が優先されている傾向が表れている。開放型の合格者数を増やす法科大学院も出ており、国公私立を問わず、学部成績が優秀な人を合格させる方向に全体がシフト。修学金に関しても法曹コース出身者が優先されるようになっている。つまり、法曹コースではない既修受験者はその分枠を減らされることになり、法科大学院進学のハードルは高くなることになる。一方、在学中の受験が可能になったことの影響については今後も注視していく必要があるだろう。当初は準備期間が短い在学中受験者の合格率は修了者と比較して大きく下がるのではないかとの見方もあった。しかし、2023年は既修修了者の合格率既修の合格率が高いのは勉強期間が長いから全体の司法試験合格率は上昇トレンドにある法科大学院での学びはさらに過密になっていくライバルの減少で司法試験合格率は上昇!2023年も前年同様45%超え43%と倍以上にアップ。既修合45%ほどとなっている。45・5%となった。●【表1】2023年司法試験の 大学院別合格率(受験者数比)上位10校●【表2】2023年司法試験の  大学院別合格者数上位10校京都大学法科大学院一橋大学法科大学院慶應義塾大学法科大学院東京大学法科大学院神戸大学法科大学院名古屋大学法科大学院早稲田大学法科大学院大阪大学法科大学院中央大学法科大学院京都大学法科大学院慶應義塾大学法科大学院東京大学法科大学院早稲田大学法科大学院一橋大一橋大学法科大学院法科大学院中央大学法科大学院大阪大学法科大学院神戸大学法科大学院名古屋大学法科大学院北海道大学法科大学院同志社大学法科大学院37.84%29人出所:法務省発表のデータより作成 ※募集停止校は除く                   68.36%67.22%60.00%59.05%48.63%47.19%44.73%42.86%39.30%188人186人186人174人121人90人78人71人42人出所:法務省発表のデータより作成 ※募集停止校は除く

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