キャリアガイダンスVol.434
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資料を調べたり議論したりすれば、自分たちで免疫に関する知識を創造できる可能性が高まります。 教科横断の授業でも、領域をまたぐ物事を先生が示すのではなく、問いを基に生徒が教科のつながりを考えられるようにしたいものです。数学の授業で「家紋はなぜ対称性をもつのか?」と投げかけ生徒自身の「当時の道具で作成可能?」「家紋の目的は何?」などの気づきや疑問から、美術や歴史との結びつきを見出す、というように。 「免疫の仕組みはこう」「数学と美術や歴史にはこんなつながりがある」と先生が〝事実〞を教えるのではなく、問いを起点に、生徒が学習内容の核となる〝概念〞を自ら構成し学んでいけるよう、授業をデザインするのです。 とはいえ、そうした授業を実際に行うと、生徒は戸惑い、十分な知識を創造できないこともあるでしょう。 その際に「うちの生徒はまだそこまで能動的に学べない」「受験やテストに間に合わなくなる」として、知識を教でも、学習者にとっては未知のことです。ですから、自分が既に知っていることを基に考えたり、話し合ったりして――つまりは知識の組み替えや活用をして、新しい知識を創ることは可能です。そのように「自分には未知のことを創り出す力」を、小文字のcから始まるcreativityとしましょう。 深い学びが起きるとは、まさにこのcreativityを生徒一人ひとりが発揮し、「知識を創り出す」ことなのです。 となると、授業における先生の役割は「知識を教える」ことではありません。教科書に載っていても生徒には未知の内容について、「自分たちで知識を創り出せる〝学習環境〞を整える」ことです。アクティブ・ラーニングやICT活用、教科横断などさまざまな授業の工夫は、この学習環境を整えるのに有効なんです。 ただし、それら授業の工夫はあくまでも目指すことを実現させる〝手段〞です。どんなゴールを目指して授業を組み立てるのか、その方向性によっては、いくら〝手段〞を取り入れようと深い学びは起こりません。 少し前まで、学校の授業は先生の講義が中心で、目指すゴールは「時間え込むスタイルに戻すのか。 私は、そこが本当に道の分かれ目だと思うのです。 戻すのではなく、授業中の生徒の学ぶ姿をよく観察し、「問いや資料、場づくりをさらにどう工夫すれば、この生徒たちが知識を創造できるか」をぜひ考えいただきたいのです。 たしかに、最初から能動的に知識を創り出せる生徒は一部です。学習環境に恵まれ、幼いころから自ら学んできた生徒はできますが、大半の高校生はまだ経験不足です。けれども、学習に関する多くの研究で、学習者は「教えないと何もできない」わけではなく、「誰もが自ら知識を構成する『学ぶ力』をもつ」ことが証明されています。育ってきた環境でその学ぶ力に差がついているなら、なおのこと学校はすべての生徒に「自分で学ぶ」という豊かな経験を保障すべきではないでしょうか。 どんな生徒でも自ら学べるような学習環境を目指す。それがこれからの授業改善の在り方だと思うのです。内に決められた知識を教えること」でした。こうした授業は「目標到達型・教授中心型」だったと言えます。 昨今は、生徒同士による学び合いなど生徒中心で活動する授業が増えました。ですが、その学び合いでやっていることは教科書の中身の確認作業だったりと、目指すゴールは以前と同じ「決められた知識を教えること」というケースが往々にしてあります。こうした授業は「目標到達型・学習者中心型」だと言えます。 そうではなく、これからの学校教育では、学びのゴールを「生徒一人ひとりが知識を創り出すこと」、言い換えるなら「生徒が自分で成長し続けること」に置いてほしいのです。こうした授業は「目標〝創出型〞・学習者中心型」と言えるでしょう。 目標創出型の授業を志向し、生徒による知識創造を促すなら、ポイントとなるのは、〝質の良い問い〞を渡して、学ぶ意欲を喚起することです。 例えば生物の授業で免疫の仕組みを学ぶなら、先生の解説ではなく、「なぜ予防接種を受けると麻疹にかからなくなるのか考えてみよう」という問いから入ります。そのうえで生徒が授業のやり方の工夫よりゴールをどこに置くかが重要「教えないと何もできない」その価値観からの脱却をますかわ・ひろゆき●認知科学者。専門は学習科学、教育工学、協調学習。編・共著に『教育工学選書Ⅱ学びのデザイン:学習科学』(ミネルヴァ書房)『21世紀型スキル―学びと評価の新たなかたち』(北大路書房)など。聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授益川弘如氏浮かび上がった教育格差 学びを進化させる「6つの視点」授業改善132020 OCT. Vol.434

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