キャリアガイダンスVol.434
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世界史の授業は、ともすれば生徒から「暗記科目」「他の国のこと」などと思われがちです。そのイメージを払拭し、世界の歴史の流れを学ぶことの楽しさと、その意義を届けようとしている先生の実践をご紹介します。取材・文/松井大助撮影/平山 諭になると思うんですよ」 ただ、生徒一人ひとりが世界のことを自分事で考えるには、土台がまだ十分にできていない、と感じることもある。 「あるテーマを考えるために教科書や資料を読むことから始めても、読むことに慣れていなくて、内容の把握でつまずく生徒がいるんです。あるいは、資料を読んで思ったことがあっても、『これが正解なのか?』と気にして発言できず、話し合いで考えを深められない生徒もいます。〝読解力〞や〝意見を出す力〞も、授業で高めていく必要性を感じています」 野中先生の授業は、生徒が資料を読み込み、意見を出し合い、歴史のテーマを自分たちで考えるのを基本としている。そしてその方針を最初の授業で生徒にも伝えている。「自分たちでしっかりと考えて、話し合って理解していこう。僕にできるのはそれを支えることです」と。 1学期終盤の3年生の授業では、生徒が2コマを使って「ベルサイユ体制」について考えた。第一次世界大戦後、各国の講和条約によって築かれた国際体制。その場に自分がいたら、どんな講和条約を結び、どのような体制を目指すかを「学んだ近代史を踏まえて」思考したのだ。 開智未来中学・高校の野中俊希先生は、世界史の授業を通して感じてきたことがある。世界史にふれた当初、多くの生徒は「他人事だと思っている」ということだ。 「『世界の出来事が自分にも関係する』と感じた経験がまだ少ないのだと思います。それは20代の僕も同じかもしれません。ですが、だからこそ世界史の授業では『自分事として考える』ことを意識しています。歴史の流れに自分を組み込み、『もしこの時代の住民だったら、兵士だったら、奴隷だったら』と考えるのです」 そんなのただの妄想じゃないか、と言う人もいる。でも野中先生の認識は違う。 「歴史の事実に基づいて当事者になりきって考えることは、妄想ではなく、『社会の中で自分がどうありたいか』を思考・判断するスタートになると思っています。しかも自分で思考して『こんなことがあったから、世界はその後こうなったのか』と歴史のつながりを見出せるようになると、『世界が見えてくる』のが楽しくなり、もっと調べたくなります。単に歴史用語を『覚える』のでなく、そうして歴史の流れを『考え、理解する』と、今に至る背景がわかり、世の中のことも理解しやすくなります。そのときに世界史で学んだことは、この社会を生きるうえで必須の教養世界のことを自分事で考え社会で生きる教養を培う生徒に対する想い判断材料の資料を読み込み既存知識も活かして考える授業の実践自分自身が探究する気持ちを持ち続けたいです生徒を見取って授業をデザイン開智未来中学・高校(埼玉・私立)開智未来中学・高校の1期生として学び、大学を卒業後、母校の教員に。高校時代に学校行事をICTの面から支えるなど、ICTに慣れ親しんできており、授業におけるICTの活用にも積極的に取り組む。同僚の工藤先生から引き継いでいる世界史マスターテキストのデジタル化も構想中。社会科野中俊希先生今号の先生582020 OCT. Vol.434

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