カレッジマネジメント209号
12/72

12米国では、2000年代初頭から、大学に説明責任を果たさせることが政策課題の一つとなった。とりわけ2005年からの第2次ブッシュ政権下において、大学が、公財政支出の対象となりまた授業料を徴収することの正統性に関する説明を求める方針が打ち出された。この方針の背景には、マーガレット・スペリングズ教育省長官の理念もさることながら、当時、連邦の高等教育予算が、額面においてもまた連邦教育予算に占めるシェアにおいても上昇しており(図1)、また州立大学、私立大学共に、学生納付金も上昇を続けていたことが指摘される(図2)。図2では、米国の私立大学の平均学納金の高さが目を引くが、学生が実際に各種奨学金制度を利用して支払う学費は、公立・私立を通じて額面の60〜70%であるとされている。ここでは2000年以降、平均学納金の伸び率が上昇していることに注目したい。2005年に、大学の説明責任を強化することを目的にいわゆるスペリングズ委員会が設置された背景には、大学が公財政支出や授業料の支払いに見合うだけの学修成果をあげていることを証拠立てさせたいという政策意図があった。すなわち求められたことは、学生の学修成果の可視化である。この委員会のもとでは、当初、学生の学修成果を計測するための全国統一テストの開発や、当時「インプット偏重で学修成果を軽視している」という批判を受けていた高等教育機関相互のアクレディテーションに、全ての高等教育機関がクリアすべき学修成果の最低基準を設定させること、ひいては現有のアクレディテーション団体に代わって、連邦が直接高等教育機関を評価する国家アクレディテーションを導入することまでが提案された。この、学修成果重視の政策案は、高等教育機関への締め付けの強化であると受け取られ、高等教育界の猛烈な反発とロビイ活動を受けて大幅にトーンダウンする結果に至った。スペリングズ教育長官は2007年の記者懇談会で、ひとつの物差しで全てを測ることはできないとして、全国統一テストの導入を強く否定した。アクレディテーション団体がこぞって学生の達成に関する数値的な最低基準を提示するということは起きず、また国家アクレディテーション機関の創設も実現されなかった。ところが、学修成果の可視化が全く進展しなかったかといえばそうではない。スペリングズ委員会が提案した強硬策は概ね実現されなかったが、学生の学修成果を可視化することによって説明責任を果たすことは高等教育機関及び関係諸団体の手によって実行に移され始めた。このことの背景には、そもそもスペリングズ委員会の提案が、当時の米国の社会に共有されていた、高等教育への説明責任への要請をくみ上げて強調したものであって、連邦政府には継続してその要請を高等教育機関に提示する用意があったことが指摘できる。いっぽう高等教育機関の側にも、可能な方法で学修成果の可視化に対する要求に応えることによって、スペリングズ委員会のような強硬策が再来することを避けるという意図が働いたことが推測される。ブッシュ政権下のスペリングズ委員会が当初打ち上げた政策方針の転換の大きさと、その後の失速の蔭にかくれて見えにくくなっているが、民主党オバマ政権下においては、2009年度の特別措置法に基づく教育予算の大幅な拡大に見られるように、教育への公財政支出の拡充を図るいっぽうで、各高等教育機関の達成に関する説明責任と効率性への要求を継続した。高等教育機関がその要求に応えるかたちで、おのおのの達成状況を数値で公開することが進んで各教育機関とアクレディテーション団体が要求に応える形で対応リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018米国における学修成果可視化の展開大学改革支援・学位授与機構 教授森 利枝寄稿高等教育予算や学納金の上昇が背景に

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る