カレッジマネジメント209号
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15リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018そのような道具立ての代表格として、Massive Open Online Courses: MOOCsとCompetency Based Education: CBEについて簡単に検討しておきたい。MOOCsは、すでに広く知られているように、インターネットによる授業の大規模配信で、2008年頃の開始当初は配信が中心であったが、後に単位を付与するプログラムも出現するようになっている。いっぽうCBEは、「柔軟性のある時間の枠組みの中で、実生活に役立つような学修成果が獲得されること」であり、「仮に『標準的な』時間より長い (あるいは短い)時間がかかっても、あらかじめ定義された成果の達成を優先すること」が特徴であるとされている(Spady, 1977)。CBEを実践している大学のプログラムの多くは、職場での経験を評価して単位や学位に繋げている。このような柔軟な高等教育プログラムは、ブッシュ政権下2005年の法改正によって連邦奨学金の対象とされ、オバマ政権下では2013年にその方針を確認する告示が出された。さらに2014年には連邦教育省の主導で、CBE実践の実験校を指定するプロジェクトも開始された。オバマ政権は発足当時に、高等教育に関し、大学に通うコストを低廉化し、全ての市民に少なくとも1年間の高等教育の経験の機会を確保することと併せ、学士をはじめとする学位取得のプロセスを迅速化するという施策方針を打ち出している。MOOCsにしてもCBEにしても、この方針と親和性が高かったといえそうだが、ここで注目したいのは両者とも、個々の高等教育プログラムや科目が達成すべき学修成果は既に可視化されているという前提に立ったうえで、その学修成果を達成するためのルートを、従来とは異なる形式で提供しているのだといえることである。MOOCsは学修成果に至るルートをオンラインでの学修機会として提供するものであり、CBEはそのルートとして実務経験を含む多様な環境を包含する試みである。いずれの場合も、高等教育のプログラムや科目といったミクロな視点に立てば、達成すべき学修成果は可視であるという前提を以て初めて可能になる設計になっている。もっとも、このように考えてくると、達成すべき学修成果が可視であるということは、学修の実践の方法が目新しい場合には改めて意識されるけれども、通常の教室での授業においても、最終的にどのような学修成果が達成されるべきなのかは見えているはずだということに気づくことになる。同様に、PBLやインターンシップといった、日本でも流行している学修方法によって単位の修得が可能であるのは、いかに方法が多様であっても、達成すべき学修成果があらかじめ可視であり、明確に記述され共有されうることを前提にしているからだといえる。以上、学修成果の可視性に関する議論と実践について、米国のトレンドを見てきたが、最後に日本における高等教育に関する議論にも響き合うような、限定された要素について考えてみることにしたい。まず、高等教育をマクロな視点で捉えたときの、学修成果の可視化については、高等教育機関はいかに説明責任を果たすべきかという議論の中で、日本でも政策上の論点となっている。米国ではそれまでの高等教育機関相互のアクレディテーションが不十分であるという議論のもと、その厳格化を目指して抜本的な構造転換が図られたが、ブッシュ政権の狙いははずれたと言ってよい。これまでのところ、もっぱら学修成果の可視化は数値を重視した情報公開によって実現するという方針が採られている。オバマ政権は強気の情報公開施策を実現したが、高等教育機関は、その内容が誤っていない限り、情報公開そのものには反対しがたいようである。ただし、なぜそのような数値が得られているのか、背景となる文脈を説明するチャンネルを要求する声は高い。このことは、日本の大学ポートレート等、高等教育機関を横断する情報提供システムを開発し提供する際に顧慮すべきであろう。また、ミクロな視点に立ったとき、個別の授業に採用しうる流行のツールの多くは、学修成果が可視であることを前提にするものでその逆ではないことを改めて確認しておきたい。学修成果の達成に効率性や多様性をもたらすことを期待して導入されるツールと、学修成果を可視化することを混同することはできない。新たなツールには、新たな可視化の方法が必要になるのである。日本でも情報公開のあり方と説明責任が焦点に特集 学修成果の可視化に向けて【参考文献】Spady, W.,G. (1977)“Competency-Based Education", Educational Researcher, volume 6, number 1,pp.9-14,reprinted by Deakin University in A Collection of Readings Related to Competency-Based Training,1994,pp.21-31. Victoria, Australia

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