カレッジマネジメント209号
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16高等教育の質保証と学位の国際的通用性への圧力が高まる中、2008年の中央教育審議会の答申『学士課程教育の構築に向けて』は、「学位授与の方針」「教育課程編成・実施の方針」及び「入学者受入の方針」という3つの方針に基づいて、大学が自主的に教育の質保証に努めると同時に、各種の学協会及び大学団体による各大学の教育改善に資するような活動への期待を示していた。その一環として、文部科学省は日本学術会議に英国のSubject Benchmark Statementに準じた「分野別参照基準」の策定を依頼し、現在までに25の分野で参照基準が策定されている。大学進学率の上昇、高等教育機関の増加と多様化、そして学問分野の急速な分化等により個別大学だけの努力では、大学教育の質保証は十分ではない、という認識が中教審にはあったものと推測される。このような、学協会あるいは大学団体による大学教育の改善の取り組みとして、国際的にも高い評価を受け、また、日本の大学教育学会と交流協定を結んでいる組織が、米国ワシントンDCに本部を置くAssociation of American Colleges and Universities(AAC&U)である。AAC&Uは、「自由教育(Liberal Education)」の価値とその重要性を、その設立当初から一貫して唱導してきた団体である。AAC&Uは自らの使命を次のように表明している。「AAC&Uの使命は、高い質と公正さこそが、民主主義を実現・維持するための優れた学士課程教育(Undergraduate Education)の基盤と考え、自由教育の活力とその社会的地位を高めることである」。では、なぜAAC&Uは、大学院も含めた高等教育全般ではなく、学士課程教育における自由教育の意義を強調し、それへの社会からの支持と評価を高めることを、その使命としているのであろうか。その理由は、ほぼ1世紀前に遡る、この組織の設立の経緯にある。1815年、シカゴに150余りの小規模なカレッジの学長らが集まり、AAC&Uの前身組織であるAssociation of American Colleges(AAC)を設立した。もともと米国の高等教育は、1636年設立のハーバード・カレッジをはじめとして、宗教的後継者と善良な市民育成を目的とし、小規模な全寮制の教育機関として、いわゆる「リベラル・アーツ」科目を中心に全人教育を提供してきた。しかし、19世紀終盤から20世紀初頭にかけて、大学院教育を重視したシカゴ大学やジョンズ・ホプキンス大学等が相次いで設置され、さらにはハーバードやイェールをはじめとする有力なリベラル・アーツ・カレッジも学士課程教育に加えて研究と研究訓練を中心とした大学院を有する「総合大学University」へと発展していった。大学史家F.ルドルフが指摘する「collegeからuniversityへの移行」である。そして、小規模なカレッジが提供しているリベラル・アーツ科目を中心とした全人教育的な自由教育は、「時代遅れ」であるとみなされるようになった。リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018大阪大学高等教育・入試研究開発センター長・教授川嶋 太津夫自由教育(Liberal Education)で求められる「本質的で不可欠な学修成果」学士課程教育改革の旗振り役、AAC&Uの取り組み寄稿「危機感」から始まったAAC&U

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