カレッジマネジメント209号
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21リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018 AAC&Uは、米国の学士課程教育の改善、とりわけ、より多くの人々が、単に高等教育に進学するだけではなく、21世紀のグローバル化した社会で個人的にも職業的にも成功できるような教育改革に国を挙げて取り組むための「旗振り役」を1世紀に渡って果たしてきた。今回紹介した取り組みのほかにも、近年ではSTEM教育やグローバル教育の推進にも取り組んでいる。AAC&Uという大学が任意で参加する団体が、米国の高等教育のアジェンダ・セッティングに大きな役割を果たしているのは、米国連邦教育省が憲法上の制約から、高等教育には連邦政府の予算支出に関連する政策を除き、抑止的な役割しか果たせないということがある。また、高等教育政策については州政府が権限を有しており、そこで州を越えた全国的な取り組みは、AAC&UやCollege Board等の、様々な大学団体が重要な役割を果たしている。また、会員大学からの会費以外にも、各種財団からの支援も多く、潤沢な予算を背景にして専任職員も多く抱えており、各種の会議や調査研究も可能で、具体的な政策提案も可能となっている。翻って日本では、高等教育政策及び予算は主に文部科学省主導で行われており、大学団体も、専任職員はわずか数名に限られ、政策提案ではなく、文部科学省が提案する政策への意見表明にとどまっているのは残念である。今回紹介した取り組みの略称LEAPは文字通り「飛躍」を意味する。AAC&Uは20世紀終わりから来るべき21世紀の到来を見据えて、新たな「自由教育」の理念のもと、全ての若者が成功できるような高等教育のあり方について、高等教育機関、大学教員、財団等あらゆる関係者を巻き込みながら、決して強制することなく、各関係者の自主性を尊重しながら、地道にかつ粘り強く取り組みを続けてきている。わが国も人口急減期を迎え、社会の活力や国際競争力の低下が強く懸念されている。生産性向上には、国民一人ひとりの人的資本の向上が不可欠であり、今以上に多くの若者や社会人が、単に高等教育を受ける機会が増えるだけでなく、「質の高い」高等教育を享受し、21世紀の社会で活躍するために必須の知識や能力を獲得できる、そのような環境を国を挙げて整備すべき時が来ている。そのためには、各大学は、国立、公立、私立、株式会社立といった設置形態の違いを越えて連携し、一丸となってわが国の高等教育の質の改善、向上に邁進すべきではないか。最後に、筆者が勤務する大阪大学高等教育・入試研究開発センターは、昨年AAC&Uと協定を締結し、クロス・アポイントメント制度を活用して、AAC&U前副会長のSusan Albertine博士を特任教授として採用し、一月ほど阪大で様々な助言や活動をお願いしている。今年も夏に来学の予定で、VALUE Rubricに関するセミナー等を開催することとしている。詳細については、当センターのウェブ等で確認をお願いしたい。(注1)AAC&U. (2015). Celebrating 100 Years of Leadership for Liberal Education: AAC&U 1915-2015. (注2)https://www.aacu.org/leap/what-is-a-liberal-education(注3)AAC&U. (n.d.). An Introduction to LEAP.(注4)https://www.aacu.org/valueに詳しい説明がある。16のELOsのVALUE Rubricを入手するには、会員登録を行った後、購入の手続きが必要である。ただし、実際には無料で入手できる。また日本語版も入手できるが、同じ手続きが必要である。(注5)George D. Kuh (2008), High-Impact Educational Practices: What They Are, Who Has Access to Them, And Why They Matter. AAC&U.(注6)Richard E. Mayer. (2004), “Should There Be a Three-Strikes Rule Against Pure Discovery Learning?” American Psychologist, January 2004. p.15.LowHighLowHigh?Cognitive ActivityBehavioralActivity図表5 2種類のアクティブ・ラーニング特集 学修成果の可視化に向けて次なる「飛躍」を目指して:日本への示唆

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