カレッジマネジメント209号
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33リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018学ならではのチャレンジである。ルーブリック評価やポートフォリオに始まり、eシラバス、自己成長シート等、学修成果の可視化をめぐる金沢工業大学の取り組みは着々と進展しているようだが、「まだもっと先に行く、もっと面白く、有益なシステムを構築するために、IBM社の協力を得てAI(人工知能)を活用した学生向けWatsonを取り入れました」と大澤学長は改革の手綱をゆるめない。そしてこれは、いち早く教育改革に取り組み、学生達の学修履歴に関する膨大なデータを蓄積してきた金沢工業大学だからこその改革でもある。「AIは文字データから情報を拾うのが得意です。そのAIが、ポートフォリオに書かれた文章をはじめとする様々なデータから各学生の特性を判断する。そのうえで自分と同じ特性を持つ卒業生を、匿名データとして類似度の順にランキングし、その卒業生達が何をどのように学んできたのかを示します。また、なりたい自分に近い卒業生の学修履歴を参照できるようにしてあることもポイントです。学生は、自分の目標や将来像を具体的に描きながら行動することができるわけです」と大澤学長は話す。気軽に使用できるよう、チャットボット(Chat Bot)の仕組みが取り入れられていることも魅力的だ(図3)。もちろん、AIの限界も十分に認識されている。「AIの言っていることが100%正しいわけではない。それは学生達にも言っています」と大澤学長は言われる。と同時に、「でも、自分を考えるとてもいいきっかけになる。実際、Watsonを利用して自分を見直し、新興国に行くプロジェクトに参加を決意し、大きく成長できたという例も出てきています」と続ける。学生向けWatsonが全学生を対象に導入されたのは、昨年の10月。本格的に運用されるようになってから間もなく、まさに発展途上である。システムが発展するにつれ、そして学修履歴のデータが豊富になり、使用事例が蓄積されるにつれ、その意義はさらに高まっていくのだろう。今後に一層の期待が寄せられる。私自身の経験を持ち出して恐縮だが、2012年夏に、別の目的で金沢工業大学を訪問調査したことがある。その時に印象に残ったのは、「標準化」を求めた改革だった。同じ名前の授業は、どの教員が担当するかに拘わらず、同じ内容を扱う。それでこそカリキュラムの体系化が可能になるとの説明だった。ところが、今回の取材からは、むしろ「多様性」に力点を置く話が多く聞かれた。教員の個性を出せるeシラバスや学生それぞれの成長を支援する学生向けWatson、また、大澤学長によれば、今後は若い学生達が社会人や留学生と積極的に関われる場の形成に努めていきたいと言う。わずか5年での変化に驚かされたが、他方で徹底した標準化を追い求めたからこそ、自信を持って多様性へと舵を切ることができるのだろうとも感じた。多様性はたしかに重要であるものの、徒に求めるとカオス状態になる。そうならずに改革が進められているのも、「標準化→個性化」という手順を踏んだからではないか。「学修成果の可視化」とは異なる論点であるが、そのようなことが強く印象付けられた。取材の最後に、ここまで改革に注力できる条件を大澤学長に尋ねた。すると、間を置くことなく、次の3つが返ってきた。第一に「学生好きのスタッフ」、第二に「アカデミック出身:企業出身=1:1という教員の構成比率」、第三に「学閥・企業閥のない環境」。学生のことを思う教員達が様々な観点から遠慮なく議論し合える環境の中で、金沢工業大学は成長し続けている。(濱中淳子 東京大学高大接続研究開発センター入試企画部門 教授)特集 学修成果の可視化に向けて図3 AIを活用した自己成長支援システムとChat Bot「学生向けWatson」活用スタート「多様性」を大事にする新しいステージへ

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