カレッジマネジメント209号
36/72

36リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018なぜ、このAP事業に申請したのであろうか。その背景について、「2013年に定めたDPに基づいて、個々の教員や授業単位では、学生に対して熱心に対応していた。しかし、組織としては、まだまだ色々なことがバラバラだった。AP事業は、大学の中で教員が個別に行ってきたことを、どのように組織的に実施していくかという課題に基づいたもの」と小林教授は話す。そして、「例えば、看護の実習では、教員も実習指導の現場に出ているので、学生の戸惑いやつまずきがどこにあるのかは分かる。学生の努力や気づきも肌で感じ把握していた。これまでその成果は、個々の実習後のレポートや事後に語られたものをもとに確認していた。しかし、2年次、3年次、4年次のそれぞれの実習での成長が、実感としてはありながらも具体的につながって見えないもどかしさがあった。このAP事業は、学修成果の可視化としてそれを見えるようにしようという試みでもある」と位置付ける。そして、今までは、成績評価のみでしか学生を送り出していなかったこと対して、「ディプロマ・サプリメント(学位証明書補足資料)」として、授業や実習での様子、看護師になるまでの過程について多面的評価を行い、良い点も悪い点も含めてそれを卒業時に学生に持たせることで、卒業後の本人の励みとしてもらうことが意図された。さらに、「ディプロマ・サプリメント」は、卒業後の職場での成長につなげる材料として、それを就職先の病院でも活用してもらうことを意図しているという。つまり、「ディプロマ・サプリメント」を通じた多元的評価に基づく学修成果の可視化により、大学教育と就職後の現任教育をつなぐことが目指されているのである。この背景には、卒業し、就職したあとに、医療の現実の厳しさの中で押しつぶされそうになる新任看護師が多く、早期離職者を減らすためには、どのように自信をなくさないように育てていけるか、という問題意識がある。卒後直後の厳しい医療環境では、業務がうまくできていても、自分は役に立たないと感じ、自己評価は低くなる傾向にある。そして、自信をなくして離職してしまうこともある。そこで、「ディプロマ・サプリメント」に加えて、卒業後に病院と共に看護師を育てる仕組みを作るために、九州地域を中心とする赤十字病院の協力のもと、学士課程教育と現任教育をつなぐ「看護職キャリアパス基礎スケール」の開発を進めている。自分自身の成長の指標を提示することで卒業後の継続教育につなげる試みである。日本赤十字社では、全国の赤十字病院に共通する仕組みとして就職後のキャリアについて、I〜Ⅴ段階の「キャリア開発ラダー」を導入しており、現職看護師に対して独自の能力開発が行われている。このAP事業では、学士課程までの教育と現任教育に共通する指標を開発し、この仕組みにつなげることによって、大学教育と職業現場での専門職としての成長をシームレスにつなげるものである。そして、そのことを通じて、大学が現場と連携してエキスパートナースの養成にも貢献するとともに、そのプロセスを可視化することが意図されているのである。このようなAP事業での取り組みは、卒業生の5〜6割が赤十字病院に就職するなかで、大学での教育と赤十字病院での教育をつなぐことで、看護師になってからの教育と成長を大学が連携として行っていくことも目指されている。全国に92●3つのポリシーに基づく カリキュラムの点検●カリキュラム・マップの作成アクティブ・ラーニング①アクティブ・ラーニング手法の授業への取り入れ②ラーニング・コモンズスペースの活用促進学修成果の可視化①PROGテスト②共通ルーブリックによる評価③自己評価/e-ポートフォリオ●アクティブ・ラーニングを 浸透されるためのFD●学生の主体的学び●学習成果分析&課題発見●各取り組みの改善●カリキュラム評価の実施カリキュラムのPDCAサイクル【卒業】【入学】図表2 具体的な取り組み(カリキュラムのPDCAサイクル)

元のページ  ../index.html#36

このブックを見る