カレッジマネジメント209号
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37リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018ある赤十字病院で共通したシステムであるため、組織の大きさを活用できるという。大学と病院が、同じ目線で協力していく仕組みなのである。このようなAP事業は、学長の直下に置かれたAP実行委員会を中心に運営されており、教務委員会やFD委員会等学内の各種委員会の委員長がAP実行委員会に委員として加わるとともに、AP事業の計画を各委員会の年次計画に含めることで、ほかの学内委員会の活動と連動するように運営されている。全学的な教育改革として組織的に取り組まれているのである。そして、AP事業の採択から2年が経過するなかでの現在の進捗状況は、まず、「看護職キャリアパス基礎スケール」については、赤十字病院との協力のもと、スケールの根拠となるデータ収集が完了し、その具体化が進められている。赤十字病院側も協力的であり、病院側での活用を視野に入れられているという。「ディプロマ・サプリメント」については、それを構成する学生の多元的評価の開発と運営が進められている。この多元的評価は、従来の成績評価に加えて、(1)DPの内容を共通ルーブリックで達成度を評価する仕組み、(2)シラバスに記載された科目の到達目標に対して、成績とは別に学生が達成度を自己評価する仕組み、(3)外部の客観指標として導入したPROGテスト(2014年から1年生と3年生に行っており、他大学との比較を見るための外部評価として利用)を組み合わせたものである。これらの仕組みを独自のWebシステムを用いたe-ポートフォリオシステムとして開発することにより、これまで紙で行っていた各授業・実習の記録を電子化し蓄積することを含めた、一元化を目指している。この新たな仕組みの導入に対する教員からの抵抗感はなく、むしろ、若手教員からはe-ポートフォリオ化は歓迎されているという。なぜなら、これまでも教員は実習記録に対して手書きでのコメント等を行っており、紙では散逸してしまう等の課題を感じていたためである。さらに、e-ポートフォリオによる一元化により、1・2年次の学習の様子を3・4年次の担当教員に効果的につなげていくことができるようになるとともに、これまでも行ってきた、実大学教育と卒業後のキャリアをつなぐ習記録等を通じたフォローが必要な学生についての教員間の情報共有が進めやすくなったという。特に、「これまでは、よくできる学生とフォローが必要な学生に目が向きがちであったのに対して、新しいシステムを導入したことで普通の学生の様子も丁寧にみることができることになった」と小林教授は話す。集団の中で見落としがちな、「普通の学生」を含めて、全ての学生の経過と状況を一元的に把握することは学修成果の可視化として重要な試みであろう。さらに、正課授業のみでなく、ボランティア活動等、学生が課外で取り組んでいる様々な活動をシステムに記録できるようにした。例えば、2016年の熊本地震に対して、学生達は、「赤十字の看護学生としてできることを」という思いから、すぐにボランティア活動に取り組み、現在も被災地の変化に合わせて幅広いボランティア活動に取り組んでいるという。これらの活動の記録も、学生の成長過程として、e-ポートフォリオに取り込み、「ディプロマ・サプリメント」に加えていくようにし、幅広い成長プロセスを「いい看護師になる」というキャリアに可視的に結びつける仕組みが模索されているのである。システムができ上がった状況の中で、学生に対して、自己評価に取り組み、コメントを記載することが自分のメリットになることの実感を持ってもらうことがこれからの課題であるという。このような日本赤十字九州国際看護大学のAP事業の取り組みについて、小林教授は「看護の分野は、専門職としての共通性がある。企業に就職する分野では難しいかもしれない」とインタビューのなかで何度か指摘された。確かに、この取り組みは、看護という領域の特徴、赤十字という組織的特徴を活かしたものである。しかし、大学教育と卒業後のキャリアをつなぐこと、学生の成長を可視化するための学内の仕組みづくりは、様々な大学にも参考になる発想ではないだろうか。そして、日本赤十字九州国際看護大学で2年後、このAP事業の枠組みで学んだ卒業生が「ディプロマ・サプリメント」をどのように受け止めるのか、そして、その卒業生がそれぞれの医療現場で「共通スケール」によってどのように成長していくのか、改めてその成果を尋ねたい取り組みである。(白川優治 千葉大学 国際教養学部 准教授)特集 学修成果の可視化に向けて

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