カレッジマネジメント209号
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66社会に必要な財やサービスの多くが「組織」によって生み出され、日本の就業者の約9割が雇用者として「組織」で働く時代である。当たり前のように感じられるが、雇用者が就業者の半数以上を占めるようになってからわずか数十年しか経っていない。組織とは何か、組織と個人の関係をどのように考えればよいのか、組織をうまく機能させるためには何が必要か、といった点について、日々組織と関わりながら、私たちはどれほど深く考えてきたであろうか。とりわけ、組織への帰属意識が低いといわれる教員が多数を占める大学では、このような疑問すら湧きにくい状況にあったと思われる。そのようななかで、大学の活動領域は広がり、教育をはじめ組織的取り組みがこれまで以上に求められ、ガバナンスやリーダーシップが強調されるようになった。学内組織の新設や統廃合こそが改革との風潮も、政策当局を含む関係者の間で広がっている。そのことに右往左往させられる大学の現場の声も聞こえてくる。組織を理解することなく、組織の中の個人を理解することなく、「組織弄り」を繰り返すことほど危ういことはない。誰のための、何のための改革なのかという疑問や徒労感が現場を覆い、学生や学問にじっくり向き合う物理的・心理的余裕も失われていく。主体的に考える力を身につけさせるための教育改革、基礎研究の深化と社会的課題を解決するための応用研究の展開、地域・社会への貢献、これらを促すための競争的環境の創出や評価の確立等、いずれも重要な課題である。問題は、大学という組織がこれらの課題を効果的・効率的に処理できる装置として機能し得る状態にあるのかという点である。装置の処理能力を知ることなく、原材料を投入し、フル稼働させれば、やがて装置は故障し、修復に多大な時間と費用を要することになる。組織と機械は違うとの反論もあろうが、組織を構成する人間は機械以上にデリケートであり、期待以上の力を発揮することもあれば、期待に応えてくれない時もある。製造現場を歩くと、機械装置の状態に目を配り、微かな異音も聞き逃すまいとする技術者・技能者の姿を目の当たりにする。ましてや組織は生身の人間の集まりである。その処理能力や状態を知ることは容易ではない。機械装置に対するものとは比較にならないレベルの目配りや心配りが必要なことは言うまでもない。理事長・学長や役員・副学長・事務局長、あるいは学部長や部課長等、指導的立場にある人々は、自分が率いる組織の処理能力や状態をどれほど理解しているだろうか。より深く正しく知ろうと努力を重ねているだろうか。組織とは何か、大学組織はいかなる特質を持ったものな組織マネジメントは興味の尽きない創造的営為大学を強くする「大学経営改革」「優れた組織」をつくり上げるために何が必要か吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 201875「改革」という名の「組織弄り」に陥っていないか

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