カレッジマネジメント209号
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67のか、個人の能力を引き出し、組織を最大限に機能させるために何が必要か等、絶えず自らに問い続け、実践と内省を繰り返しながら、自分なりの組織観やマネジメント手法を身につけていくことは極めて重要であり、興味の尽きない創造的営為でもある。本連載でも述べてきたが、明確な指揮・命令系統によって整序された経営体的組織(法人組織や事務局組織)と自律性の高い教員の集団である共同体的組織が併存する大学を企業組織と同一に論じることはできない。しかしながら、経営環境の変化を受けやすく、組織の優劣が成果に直結する企業が経験を通して培ってきた考え方や手法、それらを観察し分析することで蓄積されてきた経営学上の理論には、学ぶべき事柄が多い。そもそも「優れた組織」とはどのような組織を意味するのだろうか。ビジネス分野で世界的に注目された一冊に、『エクセレント・カンパニー』というマッキンゼー社の2人のコンサルタントによる著書がある。1980年前後の米国の超優良企業に共通する特質を抽出したものであり、日本企業の経営改革にも大きな影響を与えた。その特質とは、①行動の重視、②顧客に密着する、③自主性と企業家精神、④ひとを通じての生産性向上、⑤価値観に基づく実践、⑥基軸から離れない、⑦単純な組織・小さな本社、⑧厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ、の8つである。「行動の重視」とは、まずやってみて、だめなら直せという意味である。日本ではサントリーの「やってみなはれ」が知られているが、それと同じおおらかさを感じる価値観である。「顧客に密着する」は説明するまでもないが、大学でも学生、保護者、高校、就職先等から得る情報は貴重である。とりわけ学生に密着し、理解することで、教育や学生支援機能を充実させる様々なアイデアが生まれ、それを実践することで、競争優位性を高めることができるはずである。「自主性と起業家精神」、「ひとを通じての生産性向上」は、使う者と使われる者、管理する者と管理される者を区別する『エクセレント・カンパニー』に学ぶのではなく、個人とその自主性を尊重する。そして、組織内の至るところで地位に関係なくリーダーシップを発揮する人材が生まれる。そのような状態を指すものである。「価値観に基づく実践」は、当該企業が大切にする理念やフィロソフィーが、組織内の隅々まで浸透し、日々の判断や行動にまで貫かれている状態である。そのような考え方が徹底されているからこそ、構成員の自主性に委ねることができるのである。「単純な組織・小さな本社」は、読んで字のごとくであり、本部や機構、委員会等次々に新たな組織を設置し、複雑さを増す大学組織に警鐘をならす言葉でもある。法人・大学の本部機能や企画管理機能が重視され、教育研究現場や学生支援に係る機能に十分な戦力が割けないといった状況があるとすれば、小さな本社の考え方に則って、見直しを行うべきであろう。「厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ」は、権限を分散し、現場の自主性に委ねる一方で、全社共通の価値観は末端まで貫くことを意味する。最近では、大胆な権限委譲を行う一方で、共通の価値観・ルールの徹底とリアルタイムの実績把握を通して内外の子会社や事業部門を統制する方法も広がっている。ただ、集権と分権のバランスはいつの時代のいかなる組織においても難しい課題であることは理解しておく必要がある。「基軸から離れない」は、自社が熟知していない業種に無闇に手を広げることを戒めたものであるが、大学が新たな学部の設置や活動領域を広げる時など、意識しておくべき視点でもある。前掲書から約10年後に、『ビジョナリー・カンパニー』というスタンフォード大学の2人の研究者による著書が出版され、注目を集めた。同じ業種の金メダル企業(ビジョナリー・カンパニー)と銀メダルか銅メダルに相当する企業(比較対象企業)を比較し、前者の優位性の源泉を分析したものである。この中で、ビジョナリー・カンパニーのリーダーは、「偉大な指導者になることよりも、長く続く組織をつくり出すことに持続可能な組織をつくり出すことがトップの役割リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018

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