カレッジマネジメント209号
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68リクルート カレッジマネジメント209 / Mar. - Apr. 2018力を注いだ」と指摘している。また、「確かに、利益を追求してはいるが、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観や目的といった基本理念も、同じように大切にされている」とし、「決定的な点は、理念の内容ではなく、いかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているかだ」と述べている。さらに、綿密で複雑な戦略を立てて実行するのではなく、実験、試行錯誤、臨機応変によって生まれたものが多いとしたうえで、競争に勝つことよりも自らに勝つことを第一に考え、「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるか」を厳しく問い続けた結果が成功につながると主張する。両書に共通するのは、基本的な理念や価値観の重要性であり、それが組織内に広く行きわたり、判断や行動に貫かれていること、そのうえで、自主性を尊重し、行動や試行錯誤を通した進歩を重視していることである。自ら方向性を示し、強い指導力で組織を率いるよりも、基本的な理念や価値観を守りながら、変革を続ける持続可能な組織をつくり上げる。そこにトップリーダーの役割を見いだしていることは重要なポイントである。両書の主張は、大学組織にも通じ、十分に活かされるべき自由で豊かな発想、行動の重視、個人と組織の成長ものである。問題は、両書の観察対象が合理的な管理構造の基本とされる官僚制システムで成り立つ大企業だという点である。これに対して大学は、既述のとおり経営体的組織と共同体的組織が併存し、「協働システムとしての組織」の成熟度は決して高くない。個々の教員の自律性を尊重したうえで、教員間の協働や教員・職員間の協働をどう促すか、法人組織や事務局組織に見られがちな形式主義、事なかれ主義、セクショナリズム等「官僚制の逆機能」と呼ばれる弊害をどう克服するか等、解決すべき問題の難度は高い。組織を変革する場合、一つか二つの仕組みや制度を変更したからといって容易に効果が出るものではない。多くの場合、それらは相互に補完し合う関係にあることから、組織を成り立たせている考え方、仕組み、制度等を再整理し、相互の関係性を理解したうえで、手順を考えながら戦略的に変革に取り組む必要がある。下図は、2つの前掲書、経営学の理論、筆者自身の経験などに基づいて、「優れた組織」づくりのための枠組みを示したものである。図は4つのボックスで構成されている。中段に「組織の設計」と「人事管理の確立」を配置し、それを上段から「自校の使命・理念・将来像」、下段から「共有する価値・重視すべき考え」が挟み込む形である。目指すのは、「自由で豊かな「優れた組織」づくりのためのフレームワーク【自校の使命・理念・将来像】 〜 教員・職員や役職・一般を超えて広く考える機会を設ける▶建学の精神の確認▶使命(Mission)、基本理念の制定▶将来像(Vision)の構想・明確化 〜 強みを活かし、存在価値を高めるための基本的な方向性【共有する価値・重視すべき考え】 〜 組織文化として定着させることが大切▶自由の尊重、社会的・歴史的現実の直視▶学生と共に、同窓生と共に、保護者と共に、地域・社会と共に▶多様性の尊重、自律と協働【組織の設計】▶組織・職位の機能、権限、責任の明確化▶意思決定プロセスの明確化▶業務の標準化と ICTの高度利用▶「見える化」の徹底▶コミュニケーションの密度を高める仕組み▶持続的な改善を促進する仕掛け【人事管理の確立】▶個々人が大学で働くことに何を求めているのかを理解することが出発点▶求める役職者像、教員像、職員像の明確化▶キャリアパスと評価基準の明確化▶公平な評価と処遇▶体系的な人材育成システム例示

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