カレッジマネジメント233号
10/92

10リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022た、東京への修学旅行では、普段使わない電車を使って自分達で行き先を決めました。それまでの勉強は覚えないといけないことばかりで、ずっとやりたくないことでしたが、こうした「自分で考えて何かをしないといけない」体験は価値ある学びだと思ったのです。慶應義塾大学SFCに進学すると、そこでは自分でテーマを設定する探究的な学びが当たり前で、楽しくて仕方ありませんでした。でも、「なぜこういうごく一部の世界でしか探究は普及しないのか」と疑問に思うようになりました。なぜこうした学びがSFCにはあるのに、飛騨高山にはないのか。何かに熱中して取り組む権利は誰にでもあるはずだから、その機会を創りたいと思ったのです。全国の学校でそういった能動的な学びを展開できたら、学び自体がすごく楽しくて、子ども達の未来が明るくなるはず。それがカタリバの始まりです。小林:ボーダレス・ジャパンは起業が一般的でない日本社会で、なぜソーシャルビジネスに限定して起業支援というスキームを構築されたのでしょうか。鈴木:ボーダレス・ジャパンは社長の田口一成と2人で作った会社なのですが、我々は新卒で入社した会社の同期です。当時から田口は「世界の飢餓貧困をなくしたい」という自分軸を決めて邁進してきた人でした。一方で私は、「働くことを幸せなものに変えていきたい」という思いがありました。今村さんのように原体験があって、それは学生時代の塾のアルバイトです。とても充実した仕事だったのですが、社員の先生方はすごく辛そうで、つまらなそうでした。でも生徒達のやりたいことに寄り添って、どういう考えでこういう答えになったのかと声掛けしていくと、どんどん伸びていくんですね。こんな素晴らしい子ども達が成長して、何のために働くのか分からない大人になってほしくない。そんな残念な社会はないだろうと思ったんです。仕事が楽しくて仕方ない大人ばかりになれば、社会の空気も変わるし、子ども達も将来にわくわくできるのに。また一方で、障害があるというだけでチャンスがなかったり、シングルマザーが生きづらい状態だったり、社会が一様的で排他的な空気がある。もっと大人が元気になって、万人が助け合って生きやすい社会を創りたいと思っていました。そうした想いを持った2人が出会ったので、一緒にやったほうが早いな、と。小林:日本社会の意欲や活気がなくなってきた状態を、どう未来に向けて変えていくのかが起点なのですね。自分の「問い」を見つける探究へ教育がシフトすることで、学びの主語が学習者に変わっていく。それによって社会の大人の姿も変わってくるといいですよね。荒瀬:私は、高校生の時にアポロ11号の月面着陸を見たのですが、アームストロング船長の「これは小さな一歩だが、人類にとって大きな一歩だ」というコメントが非常に強く印象に残っています。今まで誰も行ったことのない場所に行って足跡をつけてくるのを見た時、わくわくすると同時に不安にも思いました。それまでのやり方が通用しない世界で自分は生きていかないといけないのではないかと。●今村久美 慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子ども達に学びの場と居場所を提供、2020年には、経済的事情を抱える家庭にPCとWi-Fiを無償貸与し学習支援を行う「キッカケプログラム」を開始する等、社会の変化に応じて様々な教育活動に取り組む。ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。経済産業省産業構造審議会臨時委員。既存の延長線上ではない社会で、自分の頭で自分の生き様を考える人材をどう育成するのか

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る