カレッジマネジメント233号
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11リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022既存の社会がそのまま続くのであれば、既存のやり方を身につけていれば、安心で安全な人生が続くのでしょう。それはそれで、とても幸せなことです。高度経済成長期、一所懸命働いて物理的に満たされるのは良いことでした。企業戦士という言葉も生まれた時代です。それが善だった。しかし、社会は変わるのです。しかも非連続に。価値観も変化する。そうした時代の変化のなかで幸せに生きることのできる力を養う責任が学校教育にあります。VUCA時代に生きる子ども達にとっても知識は必要ですが、それは知識を活用して課題に取り組むためであり、そのための方法を、学び方を身につけることで自分の力にしていくことが重要になります。探究を「たのしんどい」と言った生徒がいました。楽しいけれど、しんどい。未知の世界に自分の足跡をつけることだからでしょう。「探究」は、考える個として自分の人生を生きていくためのトレーニングなのです。小林:カタリバでは、どんな取り組みが探究になるのでしょうか。今村:我々の強み(コア・コンピタンス)として、図2に挙げた3点があります。特に2点目は、どんなチャネルから入ってきた子どもに対しても共通したセオリーを構造化しています。人の成長は一足飛びにはいきません。自分のやっていることに「オーナーシップを持つ」段階をゴールとして、まず関係性を構築する「オープンドア」から始まり、安心安全な場を前提に興味あるプログラムに参加を始める「セーフプレイス」、体験を通じて自己肯定感を育む「リフレーミング」、さらに一歩踏み込む勇気を育む「カレッジ」といった段階がある(図2②の5段階)。機会を与えて変化を見る部分は塾を始めとする多くのビジネスプレイヤーがいますが、実際は、学ぶことの面白みは忘れていて、タスクフルな学びに慣れてしまっている状態が、一般的な学校の風景です。だから「オープンドア」で誘い出す人の存在が必要になるし、「セーフプレイス」でこの人の話だったら聞いてもいいかなという心理醸成が必要になる。もちろん普通の教科書を使った教育でも「リフレーミング」次第では学びになりますが、そこにはタスク感がつきまといます。だから、参加するプログラムを体験価値の大きいものにすることで、「オーナーシップ」の起点となる自分の興味関心が大きく動く。このぐるぐるを回していくと、最終的に「学びは楽しい」という子が増えていきます。小林:就活でも、自分なりの興味関心を突き詰めて問いにできていないので、進路を年収や福利厚生といった機能重視で決めてしまい、後でミスマッチを起こすことはよくあります特集01大学における探究2.0指導者という「タテの関係」にある親でも先生でも、 「ヨコの関係」にある同世代の友達でもない。 本人よりも経験が豊富で違った角度から新しい視点をくれる、親近感のある少し年上の先輩や大人と いう「ナナメの関係」。ナナメの関係だから話せる本音や、 生まれる憧れが10代の意欲と創造性を引き出すと同時に、 10 代と関わった側も自分を見つめる機会となり、 共に成長することができます。10代が意欲と創造性を育む5ステップを定義し、 全ての活動の碁準となるサーピスクオリティー指標として設定しています。この指標を元に、 対象となる子ども達の特性や地域性を踏まえながら、 それぞれの活勁で場作りができているか・プログラムが機能しているか・子ども達に行動変容は起きているか・スタッフの対応は最善か、 日々技術と仕組みの改善を重ねています。カタリバには、それぞれの持ち場で妥協せず、 最善を問い続ける姿勢があります。 より良くしたいという熱量が高い人が集まっているからこそ、 ここで働くことを選んだ個人の成長を支え、 働く喜びを感じられる当たり前を、継続的に支える組織の力が必要です。ブラックでもなく、ぬるま湯でもない働きがいあふれるチームの力。 この力を軸に、 個人も組織も進化し続ける姿勢が、最も重要な組織文化であると考えています。ナナメの関係という共成長モデル10代に伴走する技術と仕組み個人の進化を支える強い組織文化親・先生10代友達必要大事ナナメの関係意欲と創造性を育む5ステップ現スタッフの勤続年数割合新人も中堅も在籍し、年次に関係なく活躍できる1~3年59.8%7~9年10.3%4~6年26.2%10年~3.7%図2 カタリバのコア・コンピタンス

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