カレッジマネジメント233号
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12リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022ね。ボーダレス・ジャパンでは問いを持つ方々を支援する仕組みを展開されていますが、そうした方々に共通して見られる特徴はあるのでしょうか。鈴木:特徴的な性質として、「何とかしたい」と本気で思っていることと、問いの向き先が自己ではなく、社会に向いていることがあります。周りに自分がやりたいことをいっぱいしゃべり、発信している。そうすると、周囲は否定せず「素敵だね」と言ってくれる。「こんな人知ってるけど紹介しようか?」となる。それを何回も繰り返すと、社会性のなかで自己が確立していき、他者に対して何ができるのかを考えられるようになります。自分の問いを突き詰めることを周囲に応援されることで、実質化していくのです。また、失敗できる環境があり、失敗から学んでいるという点も共通しています。自分で問いを持っているということは、自分で沢山動いてきたということです。当然失敗もたくさんしてきている。そしてそこから多くを学び、それをもとにまた動くというサイクルになる。探究とダイバーシティは同義で、探究を推進するとは、一人ひとりにちゃんと向き合おうという話なのだと思います。効率的に物事をまわしていくには共通化・汎用化して目標に対するKPIを作って動かせばいいですが、探究的とは、既存の延長線上にないことに挑戦する一人ひとりにスコープを置いた環境を、いかに仕組みとして構築できるのかということなのではないでしょうか。小林:既存の延長線上で捉えられないことを不安に思う人も多くいますよね。鈴木:もちろん、皆不安はあります。問いを追究することを不安に思わない人も一定数いますが、大半の方々は不安ななかで走り続けることで応援団ができて、それによって「自分はこっちでいいんだ!」と思えるようになっていく。だから、個々の問いが成り立つには環境が大事ですね。まして起業となると、社会に出ていきなり借金を背負うことにもなりかねない。我々は個が大事にしたいことを周りが支え合う環境を作り、支えてもらったら自分も支えようというお互い様の環境を作りました。助け合うなかでチャレンジしていこうという場であり仕組みです。まさに今村さんのカタリバと同じことを社会でやっている感覚です。荒瀬:学校も、「生徒にどう向き合うか」という全体最適だけではなく、「この子にどう向き合うか」という個別最適にきちんと取り組まなければいけません。それぞれの子ども達に必要な、安心安全な場をどう創るのか。少し言い換えると、居場所と出番が学びには必要で、それが高校まででも、大学でも、大事にしてもらえるといいですね。今村:岩手県立大槌高校では地域×探究という枠組みで、近くにある東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターで、生徒が海洋ゴミ研究の助手をやらせてもらっています。専門的なことも学ばせてもらいながら研究に関わるのですが、ここでの学びは一方的に教えてもらうのではなく、学校の先生とは異なる立場の大人達と問いを立て、言葉を交わし、対話しながら進めていきます。重要なのは雑談です。作業を通して感じる生徒のふとした疑問に大学の先生がさらに問いを深めるように関わってくれるのです。一緒になって盛り上がることもあれば、間違えてしっかり注意されることも。こうした活動を通して、それまでの学校の活動ではあまり目立たなかった生徒がすごく輝いたりします。そうした様子を見ていると、学校の外の多様な大人達が学校に関わる機会が増えれば、たとえ学校の人とは合わないことがあっても、外部の方と出会ってナナメの関係性を見出す生徒が増えるかもしれない。そういうきっかけで探究的な動きが増えるかもしれない、と思うんです。今の学校の仕組みでは、先生や友達との相性がキャップになって本人が委縮してしまうケースも多い。教育者と生徒という縦の関係ではない関わり方をしてくれる人が、生徒達の周りに増えるのが大事ではないかと思います。鈴木:実社会でも、地域で人と人との関係性で人は生きているので、地域の人達にとって幸せって何だろう、と自分なりに言語化できる人が増えることはとても大事ですよね。働くとは、自分ができることを持ち寄って新しい価値をもたらしていく動きの輪を作ることです。だから、その輪に参探究活動による学校外の多様な大人との関係性が子どもの新たな可能性を拓く

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